先週行われた「ワールドレディス サロンパスカップ」の2日目。この日のベストスコアとなる「67」をマークした大里桃子が、ラウンドを終え戻ってきた。昨年初優勝を挙げた大里だが、今季は大会前に出場した9戦で7試合の予選落ちと苦しいシーズン。そのなかで生まれた好スコアの要因について聞かれると、パットの握りをクロウグリップに変えたことを挙げた。
松田鈴英のクロウグリップはこんな感じ【写真】
男子ではベテランの宮本勝昌が、「中日クラウンズ」で2年ぶりのツアー優勝を果たした際、中尺パターを“アームロック”のような格好で打っている姿も注目を集めた。そういえば、石川遼もアームロックを試していたな。
そんな話題が続いていたこともあってか、大里の話を聞いてから、やけに “パター時の選手の手元”が気になる、気になる…。そこでワールドレディス サロンパスカップ決勝ラウンドのグリーンに張り付いて、予選を通過した69人の選手(アマチュア1名)の握りを『順手』、『クロスハンド』、『クロウグリップ』、『アームロック』の4つに分類し調査してみた。選手の邪魔にならないように、右往左往しながら手元を眺めた結果…
・順手:51人
・クロス:15人
・クロウ:3人
・アームロック:0人
こんな結果に。プロはラウンド中にも変更するということもあるため、数字に多少の上下は出るかもしれないが、やはりスタンダードな順手が圧倒的に多かった。そうなると、気になるのが、「どうして、その握りをしているの?」。思い立ったが吉日。グリーンを飛び出し、選手にその質問をぶつけてみた。
【順手】
昨季の平均パット数(パーオンホール)1位に輝いた鈴木愛は順手派。「ゴルフを始めた時から順手で、やっぱり感覚が一番合います。ストロークの矯正をしたい時にクロスハンドで練習をすることはあります。高校生の時に2年くらいクロスで試合にも出ましたが、結局元に戻ってしまいますね」。長年培ってきた経験を重要視しているようだ。
こちらもツアー屈指の名手・申ジエ(韓国)も、現在オーソドックスなスタイルを採用。「基本は順手で、米国にいた時はクロスハンドでした。その時は転がりに悩んでいたのですが、それも解消したので、日本参戦後に戻しました」。“あの”元世界1位のジエですら、色々と試行錯誤しているのは意外だった。
今大会で初優勝を挙げた渋野日向子も順手。現在、パーオンホールでの平均パット数で1位に立つ20歳のメジャー女王だが、元々は「パットが一番苦手だった」とか。そのため、師事する青木翔コーチが「まずはしっかりと基礎を固めて欲しかった。道具や握りに逃げずに、順手でストロークを作りたかった」というのが理由のようだ。
【クロスハンド】
2017年に1ラウンドあたりの平均パット数で3位に入った青木瀬令奈は、小学校4年時からこのスタイル。メリットについて聞くと「フォローが低く出るところですね!」と即答した。「左手でリードするからフォローが低く、長くなります。そうすることでフェースにボールが触れている時間が長くなり、真っ直ぐ重い球が打てます」。こんなメリットを感じながら、キャリアのほとんどをこのスタイルですごしている。
今季初優勝を挙げた河本結もクロスハンド。その理由は「パットは思いつめない方がいいので、入らない時は、その時に簡単だと思う打ち方にすればいいと思ってます。握り方は“お薬”みたいなもので、『いいパット打ってるのに入らない!』ってふさぎこまないよう、気分転換で色々やっています」というもの。メンタル面で追い込まないよう工夫している。
ちなみに昨年の全英覇者ジョージア・ホール(イングランド)は、10年間この握りを貫いているのだとか。理由はシンプルに「もともと左利き」だから。「左手がリードする形になるから振りやすい」と、その感覚を明かした。そういえば青木ももともと左利きだったな。また「フェースを上から入れたいと思っていたのですが、下から入るクセがあって、その改善のために勧められました」と話したのが田中瑞希。男子の嘉数光倫や佐伯三貴のアドバイスもあり、最近順手から変更したそうだ。
【クロウ】
「去年のアクサレディスで外国選手がやっているのを見て、それを父が勧めてきたので」変えたのが松田鈴英。「右手を使わないので、変に力が入らなくなりました。パンチが入るのも防げています」と効果を話す。
昨シーズン末からパットに悩んでいたという冒頭の大里は、クロウに変えたことで、こんな効果を実感。「順手で握るとパターを引くときは良いけど、インパクトに向かうときにビビってしまいフォローが出せなくなっていました。クローにしてそこが改善されました」。グリップもクロウ用のスーパーストロークを使用し、本格的に取り組んでいく。
【アームロック】
今回の決勝進出者のなかでは見かけられなかったが、「5年くらい前からパッティングで手が動かなくなっていた」という大西葵は、これで脱イップスの兆しが見えたという。
大西の兄でキャディ&プロコーチの大西翔太氏が「ヒジまでパターが接地するため、接地面積が大きくなることで安定感が生まれる」などの理由で妹に勧めたようだが、それがハマった形だ。
話を聞いて共通したのは、プロもその時の悩みに応じて、別の握りを試したり、戻したりしているということ。スイングの改造とは違って、気軽に“気分転換”ができる部分とあって、練習場では色々な握りでパターを振る選手も会場ではよく目にする。今度遊び感覚で、まずはクロスハンドでも練習してみようかな。そんな気分になった一日だった。(文・間宮輝憲)
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