プレーオフ最終戦の「ツアー選手権」は、“きっと勝つ”と思われていたブルックス・ケプカがまさかの失速で3位タイに甘んじ、逆転優勝を飾ったローリー・マキロイが2016年に続く2度目の年間王者に輝いた。
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今季「全米プロ」連覇を果たしたケプカは、他の3つのメジャー大会でもすべてトップ5入りを果たした。さらに初の世界選手権タイトルも手に入れ、年間3勝を挙げて世界ナンバー1の王座に君臨した。
今大会の開幕前日には、米ESPNが発行するスポーツ誌の特別版用に撮影されたヌード写真の一部を自らインスタグラムにアップし、ちょっとした物議を醸したが、それでも、びくともしない強さを見せつけていた。
「今、僕の調子は100%ではないが、それに近い状態だ。唯一、気になるのは小さなハエだけ。それ以外に僕の支障になるものは何一つない」
そんなケプカの溢れんばかりの自信が、最終日の彼にとって唯一の“支障”になったように思う。林に打ち込んでロストボールとなり、ダブルボギーを喫した7番は、冷静沈着な日頃のケプカなら、揺さぶられたり、後半まで引きずって3連続ボギーを叩いたりはしなかっただろう。
わずか3年のうちにメジャー4勝を挙げ、「メジャー大会にめっぽう強い」と言われるケプカだが、プレーオフ・シリーズは「なぜだか毎年、成績が振るわない」と今年も言っていた。彼の心にあった潜在的な苦手意識が、最終日の優勝争いの中で、奇妙なイタズラをしたのかもしれない。ゴルフはメンタルなゲームだからこそ、そういうことも起こりうる。
そんなゴルフの怖さと難しさ、だからこその面白さを、最終日のケプカから感じ取ることができたのではないだろうか。そして、「こういう日もあるさ」と敗北を認め、満面の笑みでマキロイに右手を差し出して祝福したケプカのグッドルーザーたる姿に、ゴルフの素晴らしさを魅せられたファンは多かったことだろう。
一方、今季のマキロイは「プレーヤーズ選手権」を制し、カナダでも勝利を挙げていたが、メジャー4大会では優勝争いにすら絡めず、「全英オープン」はあえなく予選落ち。大いにフラストレーションが溜まるシーズンを過ごしてきた。その意味で、最終戦で挙げた逆転優勝は、マキロイが感じ続けていた今季全体のモヤモヤを一気に払拭する逆転優勝だったと言っていい。
昨年のツアー選手権最終日、マキロイはタイガー・ウッズとともに最終組で回ったが、「74」と崩れ7位タイに甘んじた。72ホール目、フェアウェイになだれ込んだ大観衆がウッズ勝利に沸き返り、狂喜していたなか、マキロイは誰からも注目されることなく、亡霊のような姿でイーストレイクから去っていった。
そう、マキロイにとって今年のツアー選手権は、そんな昨年大会の雪辱戦だったのだ。1年前のこの場所で、復活優勝を遂げて笑顔を輝かせたウッズの傍らで、自身のプレーの情けなさを噛み締めたマキロイは、雪辱を胸に誓い、そして今年、その想いを見事に遂げた。
「今日は長い1日だった。今年はグレートな1年だった。今、とても疲れているけど、今夜は少しだけ飲もうかな」
自信満々だったケプカが最後の最後に敗北を喫し、1年前に自信を失いかけたマキロイが最後の最後に逆転勝利。そんな2人の対比は、ゴルフや人生にどう向き合うべきかという問いを私たちに投げかけ、何かしらヒントとなるものをもたらしてくれたのではないだろうか。
いろんなことが起こる。努力が報われないこともあり、自信が過信となって自分自身を阻害することもある。だが、勝っても負けても素敵な笑顔を見せたマキロイとケプカの姿を見て、自分もそうありたいと、少なくとも私は大いに頷かされた。
文・舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
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