新型コロナウイルス感染拡大の影響で、国内だけでなく世界各国で中止が余儀なくされているゴルフトーナメント。なかなか試合の臨場感を伝えることができない状況が続いています。そこで、少しでもツアーへの思いを馳せてもらおうと、ツアー取材担当記者が見た選手の意外な素顔や強さの秘訣、思い出の取材などを紹介。今回は2年前のニューヨークで起きたあの事件について。
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今頃はニューヨークで「全米オープン」を取材しているはずでした。コロナ禍のなかで世界のツアーは軒並み中止・延期となり、記者も家で仕事をすることがほとんど。過去の取材を振り返る時間も多くなりますが、近年でもっとも印象に残っているシーンが、グリーン上で動いている球を打つという行為で物議を醸したフィル・ミケルソン(米国)のあのできごとです。
海外メジャーの取材では、主に日本人選手のプレーを追うことがほとんどです。私ももっぱら松山英樹プロのプレーを追いかけて原稿にするのですが、2018年の全米オープンにはもう一人ベテランの記者が入っており、私は海外選手のネタを拾うことにしました。コースから一度メディアセンターに戻り、またコースに出ようとしたときでした。前方の大型スクリーンに思いもよらない映像が流れたのです。
当時はゴルフをはじめて27年目。動いている球を打つ人など見たことがなかったので、目を疑いました。私の周りにいた現地の記者たちも首をかしげ、「これ本当なのか?」、「ミケルソンをつかまえろ!」など、大騒ぎになりました。最も権威のある米国ナショナルオープンで、まさかの行為。これはニュースだ、と強く感じたのを覚えています。
会場のシネコックヒルズは、ニューヨーク郊外のロングアイランド島にたたずむリンクス風コース。ただでさえ難解なコースですが、主催の全米ゴルフ協会(USGA)はコースセッティングを“誤り”、コースはカラカラ状態となっていました。グリーンは迷彩柄のような状態にはげ上がり、選手のストレスも高まっていました。ボールが止まらない、転がりが一定ではない。そんな状態の中で、カッとなってやってしまったのだろうか。そんなことを思いながらミケルソンのホールアウトを待って、インタビューエリアへと走りました。
ホールアウト後、スコアカード提出所からなかなか出てこないミケルソン。目測ですが、海外の記者が50人以上押し寄せ異様な雰囲気に。15分ほど待ってようやく出てきたミケルソンを記者が囲みました。そこで出たミケルソンの言葉は「ペナルティと分かって打った」でした。下りのパットがカップを通り過ぎ、傾斜で段を滑り落ちそうになったとき、あわてて球に走り寄り、それをカップに向かって打ってしまったのです。
当然ペナルティが科されるわけですが、「ゴルファーとしてどうなのか」、「品格に欠ける」、「あってはならないこと」など、米ゴルフ界でいちばんといってもいいスターの行為は非難されました。私もあのときは、いくらルールどおりペナルティを科せられたとしても、あってはならないことと、強く批判する記事を出しました。
現場にいるときは、自分が見た情報をすぐに原稿にしなければなりません。時差があるとはいえ、これは大きなニュースと思い、即座に日本に原稿を送りました。紳士のスポーツであるゴルフの品位を汚す行為という論調でした。ところが、これに対して数々のご意見をいただきました。「罰打が科されたのだからいいじゃないか」という意見を聞いたとき、なるほど、それも一理あると思ったものです。
動いている球を故意に打つことなどあってはならない。そう思い込んでいた私は、この事件とこの記事について、しばらく悩みました。米国の記事も概ねミケルソン批判のものでしたが、世間の論調は意外とそうでもない。淡々と事実だけを書くべきだったのか。今でもその答えは出ていません。「やってはいけないこと」という気持ちは今も変わっていないのですが、報道としてはどうだったのだろう、と。
今後、このような行為があるとは思えませんが、もしあったときはどんな原稿を書くのがいいのか。今更ですが、もっとゴルフに対する視野を広めていけるようにしていきたいと思います。(文・高桑均)
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