台風14号の影響で第2ラウンドが中止になるアクシデントに見舞われた、先週の国内女子ツアー「スタンレーレディス」。その結末は、同じトータル5アンダーで並んだ淺井咲希、ペ・ソンウ(韓国)をプレーオフで退けた稲見萌寧の優勝という結果になった。この約1年4カ月ぶりとなる勝利の要因を、上田桃子らのコーチを務める辻村明志氏が分析した。
これが稲見萌寧のショット力を支える3Dドリル この間を通すのはすごい…【写真】
■高いショット力でもぎとった優勝
終盤4ホールで3つのバーディを奪い、土壇場でプレーオフの一員に名乗りを挙げた稲見。本人は勝因について「(最終日は)すべてのホールでパーオンに成功して、それがボギーなしという結果につながった」と話したが、辻村氏もこのグリーンを狙うショットを高く評価した。「パーオン率1位の選手が、最終日に100%を記録したとなれば、それはショットでもぎとった優勝と言うほかありません」。
辻村氏の言葉にもあるように、稲見はツアー本格参戦初年度となった昨シーズン、27試合に出場しパーオン率78.2079%をマーク。並み居る強豪を押しのけて、このスタッツでツアー1位に輝いた。そして今季もスタンレーレディスを終えた時点で、パーオン率は78.5185%に上昇。前週の2位から、“指定席”の1位に躍り出た。この数字は稲見自身「(1位は)譲れない」と強くこだわる部分でもあるが、では高精度ショットの秘密は、一体どこに隠されているのだろうか?
これについて辻村氏は、「ボールにクラブが当たる前、そして当たった後の30cm」を1番のポイントとして挙げた。続けて、このインパクト前後の30cmが「スイング作りのベースになる」と前置きしたうえで、稲見の強みをさらに詳細に説明する。
「稲見さんのスイングを見ていると、このインパクト部分でフェース面の管理がすごく徹底されている。つまりインパクトゾーンを、フェースがほぼスクエアといえる状態のまま抜けていきます。変にローテーションしてしまったり、あるいはコネてしまう選手であれば、パーオン率1位に立つことはできません。ここをスクエアに振れ、かつそれをいつでも再現できるスイングを身につけていることが、ショットの精度につながっていますね。繰り返しになりますが本当にフェース面の管理がうまいですし、ボールの前後30cmから逆算したスイング作りができています」
実は、このインパクトゾーンでフェース面を真っすぐキープさせたまま振り抜くというのは、稲見自身も重要視している部分だ。
以前、ショット練習の様子を取材した際、これから打つボールの周囲にティペグを刺したり、ボールのスリーブ箱や別のボールを配置し、これら“障害物”に当たらないようにスイングするという3Dドリルを教えてくれたことがあった。この効果を聞くと「テークバックの軌道とインパクトゾーンでのヘッドの通り道を確認するのが目的。フェースが真っすぐなままでないと、どこかにぶつかってしまいます」という答えが返ってきた。
■スイングのキレも増し増し!
さらに辻村氏は、インパクト後のフォロースルーにも稲見の強さの秘密を見出している。
「インパクト後、左ワキがしっかり締まったままフィニッシュまでもっていける。左ヒジが体の近くにある状態をキープし、そのままボディターンができています。例えば下からヘッドが入ってしまうような、インパクト手前で“誤作動”が生じると、どうしても左ワキの甘さや、左ヒジの抜けにつながってしまう。しかし稲見さんは、このヘッドの入り方が非常にいいので、“ほつれ”が起こることが少ないです」
これらに加え「ボディターンの鋭さが増し、スイングスピードも上がっていますね。さらにスイングの回転軸にキレが出てきました」と進化を遂げた部分や、「ボールの前後30cmをスクエアに保つことで、フェース面にボールが乗っている時間が長くなります。この時間が長いからこそ、コントロールの精度が高まるのです」など、次々と稲見のショット面の強みが挙げられた。
またこの試合では、日頃から指導を受ける奥嶋誠昭コーチが、稲見のキャディを務めたのだが、これについても辻村氏は「自分の悪いクセまで知っている人が近くにいるのは心強かったと思う。普段からスイングに関して“あーだ、こーだ”言っているコーチだからこそ言える本音もあります」という効果がもたらされたと考える。辻村氏自身も、上田や小祝さくらといった“教え子”のバッグを時々担いでいるが、「練習場とコースで起こることは違う。だからこそ、その試合の場で確認できるのは大きい」ということをバッグを担ぐたび感じるそうだ。
大目標に「年間パーオン率80%」を掲げる稲見は、1日10時間ともいわれる練習量にも支えられながら、これからもさらに己の武器を磨いていくことだろう。辻村氏も「ショットで生きる人は長生きする。ここで1勝できたことは、この後のシーズンを戦ううえでも大きいですね」と、21歳の若きショットメーカーのさらなる活躍を予見している。
解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、山村彩恵、松森彩夏、永井花奈、小祝さくら、吉田優利などを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。
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