出場11試合中10試合で予選落ちし、1試合は棄権。初の賞金シード選手として迎えた2020年にもがき苦しんだのが、タイ出身のS.ランクンだ。日本ツアー参戦初年度の19年には、初優勝&初の賞金シード獲得と最高のスタートを切ったが、一転20年はどん底ともいえる1年に。異国でプロ生活を送る21歳は今、“獲得賞金0円”からのV字回復を目指し臨戦態勢を整えている。
タイの民族衣装姿を披露するランクン
「開幕まで、もう1カ月を切ってますが、早く試合に出たいですね。今は最後の仕上げに入っている段階。予定していた以上の成果を得られたと実感しています」
現在の状態を聞いてみると、“ほほ笑みランクン”の異名そのままの笑顔とともに明るい答えが返ってくる。「スイングは8〜9割の仕上がり。あとは場面ごとのショットの選び方にフォーカスしていきたいですね」。拠点にする千葉を中心にスイング調整やトレーニングなど地道なメニューを重ね、“狂い”を元に戻す日々を送ってきた。
「今考えると、19年の夏場過ぎから崩れていたんですけど、その時は気づくことができなかった。去年の開幕前にそれをはっきりと実感して、そこから調整したんですけど間に合いませんでした。(原因は)日本の夏に対応できていなかった。体重とともに筋力も落ち、それがスイングの崩れにつながってしまいました」
18年末に行われたQTで32位となり、翌年から日本ツアーに本格参戦。同年3月の開幕戦から試合に出場し続け、7月の「ニッポンハムレディスクラシック」では初優勝もつかんだ。最終的に3914万9737円を稼ぎ、賞金ランクは31位でフィニッシュ。50位までが手にするシード選手の肩書も得るなど、一見するとデビューイヤーは順風満帆なものとなった。しかしこの年の夏場を過ぎたころから、翌年のスランプにつながる兆しが出始めていたと、いま振り返る。実際、その時期から『予選落ち』という文字も増え始めている。
タイの選手だけに暑さはお手の物、という感じもするが、話はそんなに単純なものではなかった。「向こう(タイ)はスコールが降って、夏でも涼しい時間がある。日本は“乾いた暑さ”が一日中続くというイメージ。夏バテで水分しか摂れず、体重も最大で10キロほど落ちました」。ベストコンディションを保てなくなり、飛距離も落ちる。そこからスイングも崩れていく…。本人も「負の連鎖」と認めざるを得ない状況が、昨年の不振を招いた。
「なぜ予選落ちが続くのか? なぜ失敗するのか? そこは大きな問題でした。シーズン当初はプレッシャーもあってネガティブに陥っていたこともありました。でもそのなかで挑戦していこうと前向きに考えるようにしました」。そうは言うものの、もちろんすぐに事態を飲み込めたわけではない。初日に「82」を叩いた10月の「スタンレーレディス」では、会場を後にする車中でついに積もりつもった感情をコントロールできず、涙でシートを濡らした。
そんな苦しかった1年を終えたランクンは、まず“食トレ”で体重を戻すことに着手。そのうえで筋量を戻し、同時進行でスイングの調整を重ねた。そのかいもあって、体重も今ではベストに近い状態まで戻り、ショットに関しても前述した通りとなった。「開幕から2カ月は中盤くらいの順位にいられるようにして自信を戻したいです。最後に賞金ランク40位以内に入ることが今年の目標です」。ここからその成果を、結果につなげたい。
心機一転の気持ちはこんな部分にも。髪の毛を20センチほど切って、「人生で初めて」というショートカットにした。「去年の成績が良くなかったので、悪い流れを変える意味も込めて切りました。父がずっと切る事に反対していたんですけど、内緒で。最初見られた時は怒られちゃいましたけど(笑)」。昨年の負の連鎖も、こんな風にバッサリと断ち切りたいところだ。
「私にとってシーズンが統合されたことはよかったかもしれない。去年の失敗を取り戻すことに挑戦できるので」。“20-21年”とくくられることになった変則的なシーズンをチャンスととらえ、沖縄から背水の陣を敷いていく。
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