東北地方を中心に、甚大な被害をもたらした東日本大震災。まもなく10年を迎えるにあたり、当時のゴルフ界の様子を振り返る。女子ツアーでは当時、シーズン2戦目の「ヨコハマタイヤゴルフトーナメント PRGRレディスカップ」初日の競技が高知県で行われていた。
三陸沖で発生した強い地震の影響は、土佐カントリークラブにも訪れた。揺れこそ感じなかったものの、避難指示が発令され、海に面している会場は車両の出入りが禁止に。選手や関係者はもちろん、約320人もの観客がコースに足止めされる事態となった。
第1ラウンドは無事に終了したが、JLPGAは発災を受けて緊急で対応を協議。選手を集めたミーティングを開いて状況を説明したが、翌日以降の競技継続については、本部や主催者との連絡が取れなかったため、決定は先送りとなった。
そのあいだも車両規制は続き、観客はバスで待機。みかねた選手たちが、それぞれバスを訪ねてサインをして回った。宮城県の東北高校出身の有村智恵は、「連絡がとれない知人が何人かいます」と不安がよぎる中でも、「私たちはサインするだけなので。ずっと狭いところで待っていてくれて、みんな心配していました。何かできないかと思って」と、ファンを前に気丈に振る舞った。
翌日、再び行われたミーティングで競技不成立、大会の中止が決定。一夜明けて徐々に情報も集まってくるとともに、選手たちのあいだにも不安が膨らんだ。選手を代表して取材に応じた有村も、「テレビで仙台を見て、すごく心配で…」と、こみ上げる涙を我慢できず声を震わせた。
有村はその後、震災前に出場した米国女子ツアー「HSBCチャンピオンズ」と国内開幕戦「ダイキンオーキッドレディス」の賞金、あわせて約1200万円を寄付。大山志保や原江里菜、10年の賞金女王、アン・ソンジュ(韓国)らも義援金を寄贈。ほかにもプロ自らが街頭募金に立つなど、次々と動き出し、プロスポーツとチャリティの結びつきがより一層強まった。
その後、女子ツアーでは「Tポイントレディス」、「ヤマハレディースオープン」、「スタジオアリス女子オープン」と中止が決定。再開したのは、およそ1カ月後の4月15日。「スポーツを通じて社会に貢献する」というコンセプトを掲げ、「心をひとつに 西陣レディスクラシック 〜東日本大震災 復興支援チャリティ〜」から名称を改めて、熊本県で開催された。同大会の入場料収益の50%を義援金とするほか、会場内でも様々なチャリティイベントを実施した。
再開初戦は、地元出身の不動裕理の通算49勝目で幕を閉じた。「今まで、ゴルフができるのが普通の環境だったけど、開催されなければ私たちは何もできない。いろんな人たちに支えられてゴルフができるということは本当に幸せなことだと感じました」と勝利を噛みしめた。
あれから、10年。復興への思いと支援はまだまだ続いている。
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