中西直人は昨年から『エポンゴルフ』のアイアンをバッグに入れて戦っている。ツアー選手で契約しているのは中西一人だけ。『エポンゴルフ』は遠藤製作所の子会社として1977年設立。特に上級者からの信頼が厚い人気ブランドだ。しかし、それ以前から遠藤製作所(1950年設立)はOEMメーカーとして、大手ゴルフメーカーのクラブを手がけてきた。その70年の長い歴史のなかで、中西が初めて用品契約を結んだプロゴルファーということになる。ツアー未勝利の32歳となぜ契約に至ったのだろうか。
昨年まで契約フリーだった中西が、『エポンゴルフ』とつながりを深めたのは一昨年のこと。「19年8月にサトウ食品インビテーショナル フューチャーGOLFツアーin新潟のプロアマに出場させていただいたとき、一緒の組で回ったのがサトウ食品の専務さんで、前の組が遠藤製作所の社長さんでした。もともと遠藤製作所のことはよく知っていて、その後、(サトウ食品の)佐藤社長がつなげてくださって、(19年の)年末に『クラブを使いませんか』と言っていただいたんです」。中西の明るく前向きな人柄と、ゴルフに取り組む真摯な姿勢が気に入られ、契約のオファーが来たのにも関わらず、中西は最初断っている。
「僕のなかでクラブに求める条件が4つあって、『カッコイイか?』、『振りやすいか?』、『打ちやすいか?』、『イメージ通りの球が打てるか?』。当時使っていたタイガー・ウッズのアイアンがすごく自分のイメージにマッチしていて、替える必要はないと思っていたんです」
中西のいうタイガー・ウッズのアイアンとは、19年5月にテーラーメイドから数量限定で発売された『P7TW』のこと。軟鉄鍛造マッスルバックのタイガーレプリカとあって当時大きな話題となった。それを自ら購入し気に入っていた中西は、用品契約のメリットを感じていなかったが、『エポンゴルフ』のモノ作りの現場を見て考えを変えることになる。
「アイアンを作る工程を見させていただいて、鉄の塊から全部手作業でアイアンの形になった。『使えるかな?』という感情から『使いたい!』に変わっていったんです。タイガーのアイアンを超えるアイアンを作るとも言ってくださった。そこからカッコイイクラブを作りましょうということで、昨年1年間はヘッドの重心からデザインもすべて携わらせてもらいました。僕がクラブに求める4つの条件を満たして、プラスアルファで打感の良さも加えてくれた。それがいまのアイアンです」
中西が使用しているアイアンは、エポンのマッスルバックアイアン『AF-Tour MB』のようにも見えるが、細部に中西のこだわりが詰まったプロトタイプとなっている。
「やっぱりシンプルかつカッコ良く。バックフェースはエポンさんのロゴだけにしました。出球が高くなるように、ソール幅はタイガーモデルよりも分厚くして、ヘッドの重心を低くしています。『マッスルバック=飛ばない』というイメージがありますけど、低重心化することで高く上がってやさしく飛ばせるクラブになっている。今までのマッスルバックの概念とはまったく逆です」
そして昨年12月、「一緒に戦えてうれしいと言っていただいたし、僕も同じほうを向いていた」と、ついに中西はエポンと用品契約を締結した。アイアンとウェッジだけの契約で、ウッドとパターを除く10本のエポンのクラブが中西のキャディバッグに収まっている。
ウェアのデザインもクラブのデザインも自ら行っているのは、ツアーでも中西くらいかもしれない。「オンリーワンのプレーヤーになりたい」という中西の正真正銘のオンリーワンのアイアン。気になるのは今後の発売の可能性だ。「契約したからには売り上げに貢献したい。『このアイアンを売るにはどうしたら良いですか?』と聞いたら『優勝してください』と言われました」。中西がツアーで初優勝を挙げたときに、エポンから“中西モデル”が発売される約束となっている。
ちなみに、48、54、60度のウェッジにも中西のこだわりが。「これ以上ないくらい肉を上に持ってきて、超高重心ウェッジになっています。どこのメーカーのウェッジよりも高重心というのがエポンさんのデータで出ているくらい。あと、ソールに凹みを作って、プレッシャーがかかった場面でも地面に刺さりにくくなっています。これは昔からやっているこだわりですね」と中西は話す。
54度と60度のウェッジは、ヘッド上部ほど肉厚になっていて高重心化。低重心のアイアンとは逆だが、重心を上げることによって、バックスピンが増えてグリーンにボールを止めやすくなる。これは現行のエポンのウェッジにはないデザインだ。さらに、60度のウェッジのソールの真ん中には凹みがあり、ヘッドが抜けやすいように工夫してある。これも現行モデルにはない。
さらに、中西のウェッジの溝の数は「18という数字が好きだから」と18本になっている。その理由を聞くと、「18の理由は一か八かです。関西人なので」と笑っていた。
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