<マスターズ 最終日◇10日◇オーガスタ・ナショナルGC(米ジョージア州)◇7510ヤード・パー72>
タイガー・ウッズ(米国)の復帰戦は、トータル13オーバー・47位という結果に終わった。しかし記録以上の“記憶”を、今年のオーガスタに刻み込んだ。
自動車事故で重傷を負った右脚を懸命に前に進め、72ホール目のグリーンにたどり着くと、周りを取り囲むパトロンたちは立ち上がり、大きな拍手と歓声を送った。帽子を取り、右手を挙げてそれに応えるウッズ。最後のパーパットを沈めると、同組のジョン・ラーム(スペイン)、キャディとしっかりと握手をし、その手を振りながらグリーンを降りた。
最終日も1バーディ・5ボギー・1ダブルボギーの「78」。前日と同じ、自身のオーガスタワースト記録を並べた。だが、その表情には充実感がにじむ。「信じられない気持ち。パトロンの声援に支えられた。決してベストなプレーではなかったが、声援とファンに本当に感謝している」。1年2カ月前のことを考えると、これはまさに奇跡の光景だ。
事故により一時は選手生命も危ぶまれた。それについては本人も「1年前は4ラウンドプレーできるとは考えらえなかった。1カ月前もまだ分からなかった」というほど。だがそれを成し遂げ、「とてもポジティブ。これからやるべきことがあってとても楽しみにしている」。オーガスタで状況が前進したことは、大きな自信になる。
痛みは「もちろんある」。ラウンド後、「氷水に浸かる」ことも欠かせない。それでも、ここを復帰戦に選んだ理由をこう明かす。
「毎年同じ場所でプレーするメジャー。他にこんなところはない。そしてこの大会は僕と、僕の家族にとってとても大きな意味がある。僕が生まれた年(1975年)にリー・エルダーが初めて黒人としてここでプレーをした。そして去年オナラリースターターも務めて、僕が25年前にここで勝ったときにもリーがいた。あれから25年経って、またここでプレーできた」
そのエルダー氏はマスターズに6度出場。昨年の大会では名誉スターターを務めたが、ウッズは出場することができなかった。そして同年11月にエルダー氏は87年の生涯を閉じた。1997年にウッズがマスターズ初制覇を挙げた時には、「僕がパイオニアではない。チャーリー・シフォード、リー・エルダー、テディ・ロデスが、道を開いた」という言葉も残したほど尊敬する人物への思いも胸に戦っていた。
そしてこの挑戦を成し遂げたことが、“次へ”の想いを掻き立てる。英国のスポーツ専門チャンネルのインタビューでは、今年7月14日開幕の「全英オープン」への出場も明言した。他の試合について具体的な言及はなかったが、「これから2日ほどゆっくり痛みを取って、次に進みたい」と話した。
「メジャーを戦うまで大変な道のりだった。この14カ月はどんなことが起こってもおかしくなかった。マスターズで戦えたことにとても感謝している」
最終日は母のクルティダさん、娘のサムさん、息子のチャーリー君、ガールフレンドのエリカ・ハーマンさんもその雄姿を見守った。周囲の支えとともに、まだ完全には自由がきかないその足で、ゆっくりと歩みを進めていく。
<ゴルフ情報ALBA.Net>