昨年の「マスターズ」での出来事。初のアフリカ系アメリカ人としてマスターズに出場を果たしたリー・エルダー(米国)がオナラリースターターとしてオーガスタ・ナショナルGCに戻って来た歴史的瞬間に起きたことだった。
エルダー、ジャック・ニクラス(米国)とともにオナラリースタートでショットを放ったのはゲーリー・プレーヤー(南アフリカ)で、そのキャディを務めたのは息子のウェイン・プレーヤー。エルダーの出席に世界が注目、歴史的な瞬間でもあった。
その“時”をウェインは見逃さず、父が使うボールの宣伝に利用。エルダーのほぼ真後ろに立っていたウェインはテレビカメラによく映る位置で、手にはそのボールのスリーブ箱が握られていた。エルダー氏はボールを打つことはできなかったが、スピーチを行った。感動的なシーンを「完璧なプロモーション」に利用したというわけだった。
オーガスタ・ナショナルGCはすぐに措置をとった。ウェインの入場に必要なバッヂは即取り上げられて、大会には戻ることができなかった。歴代チャンピオンの関係者では、おそらく初めてだと言われている。バッジ取り上げはその年だけではなく、今後も続く。つまり「永久追放」となった。
オーガスタ・ナショナルGCからの発表はもちろんない。が1年経って、一時はプロゴルファーでもあった56歳のウェイン・プレーヤーが米ゴルフダイジェスト誌のインタビューに応じ、公表した。
「僕は人々に事実を知られることは構わない。だけど(オーガスタ)ナショナルはそういうことを一切メディアには公表しないんだ」とウェイン。
この出来事があってウェインはオーガスタ・ナショナルGCに詫び状を送ったが、「お詫びは受け入れるが、我々の決定は変わらない。ゴルフの歴史の大切な瞬間を汚した。戻ってくることは許されない」という返事だったという。
ウェインはこの出来事の数年前、2018年にもマスターズ・トーナメント期間中に借りたレンタルハウスの支払いでも揉め事を起こしている。ウェインが支払った小切手が現金化できず、その後の支払いにも応じなかった。その結果、ジョージア州で詐欺事件として逮捕されている。
「父はオーガスタからニクラスや故アーノルド・パーマー(米国)と同じようにフルメンバー招待を受けていない。父ほどゴルフの発展に力を注いだ人はいないのに」とウェインは語っている。(文・武川玲子=米国在住)
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