<KPMG全米女子プロゴルフ選手権 最終日◇26日◇コングレッショナルCC(米メリーランド州)◇6894ヤード・パー72>
1打リードで迎えた最終18番ホールのグリーン上。1.5メートルのパーパットを沈めると、チョン・インジ(韓国)は静かにその右手をグッと握った。2018年の「KEBハナバンク選手権」以来、4シーズンぶりとなる米ツアー4勝目を手にすると、仲間たちが水をかけて祝福。そして、あふれ出る涙を何度も拭った。
初日にコースレコードとなる「64」(8アンダー)を記録。2位に5打差の単独トップで飛び出したが、3日目に「75」とスコアを落とし、首位こそ守ったもののその差は3打にまで縮まっていた。そして風が吹くなか飛び出した最終日。「最初はプレッシャーをコントロールできず、正直、ゴルフを楽しめなかった」と前半だけで4つのボギーを叩き、レクシー・トンプソン(米国)に一度は逆転を許した。
「自分のゲームプランに忠実にやれば、バックナインでもチャンスがあると信じていた。でも、まだ体は震えているわ」
そのレクシーも後半は伸び悩むなか、16番のバーディで並んだ。そしてインジがパーだったのに対し、レクシーがボギーを叩いた17番で再び逆転に成功した。「昨日、もしゲームが簡単になるのなら、つまらない気がすると言ったけど、レクシのプレーは素晴らしかった。彼女は私に大きなプレッシャーを与え続けてくれた」。最後は『おめでとう』と声をかけてくれたライバルの存在が、底力を引き出す大事な要因になった。
米国で手にした4勝のうち、メジャー優勝は3回。ノンメンバーとして勝った15年の「全米女子オープン」、16年の「エビアン選手権」に続くビッグタイトル獲得となった。さらに母国の韓国のみならず、日本でも15年の「ワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップ」、さらに同年の「日本女子オープン」で勝っている。“メジャーハンター”と呼ばれるゆえんだ。
それでも優勝から遠ざかる間には、スランプにも陥り、心無い声も耳にした。さらに精神的にも落ち込んだ時期もあったという。「先週、姉に相談したときに泣いた。もうアメリカに残ることは難しいかもって」。すると『ゴルフを辞めてもいいのよ』という優しい言葉がかけられた。しかし、それで「ゴルフを辞めたくない」という思いを逆に強くすることに。「あんなことがあったのに、優勝できて本当にうれしい。自分自身を誇りに思っている」。涙と笑いが入り混じる表情で、こう胸を張った。
優勝争いの苦しい時でも、決して笑顔を絶やさなかった。「スタート前にコーチから、『楽しんで試合ができればトロフィーは君のものだ』って言われたの。私はその言葉を信じて、ずっと笑顔でいることで精一杯。自分のプレーがうまくいかないときに、それは本当に難しいことなの」。やっとの思いでたどりついた“うれし涙”だった。
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