先週行われた米国女子ツアー「ポートランドクラシック」開幕前日の14日(水)。コースに西日が差し込み始めた午後5時38分に、渋野日向子はその日の締めくくりとなったグリーン周りのアプローチ練習を終えた。
この日は、午前10時45分からプロアマに出場し9ホールをプレー。午後1時30分頃にプレーを終えると、しばしの昼休憩を挟み、午後2時頃からはショット練習場で1時間30分ほどクラブを振り続けた。それを皮切りに、パット練習、そして冒頭に述べたアプローチ練習へと流れる。実にハーフラウンド+3時間30分以上にも及ぶ“最終調整”を行った。
2年前にプレーしたことのあるポートランドのコースでは、精力的に汗を流す渋野の姿が印象的だった。その前週、オハイオ州で2週連続となる予選落ちを喫したこともあり月曜日にコース入りすると、さっそくプロアマ(先週は月、水と2度行われた)に参加。午前7時30分から18ホールを回ると、その後はショット、パットを確認し、最後に広大なアプローチ練習場で30分以上の時間を40〜70ヤードのウェッジショットに割いた。
さらに翌火曜日には、昼頃から18ホールの練習ラウンドを行い、そこでグリーンやその周りを入念にチェック。こまめに弾道計測器を使用するなどしてショットの調整にも努めた。プロアマの前夜祭が行われたこの日は、それが開始される午後6時ギリギリまで、1時間30分ほどショットの特打ちも。前週、課題に挙げていた『距離感』をつかもうと励んだ。
米国で渋野のトレーナーを務める藤倉法隆氏とともにそんな姿を眺めている時、オハイオ戦の終わり頃から練習量が増えた、という話しが聞けた。そこでこの練習量の変化について、最終日のラウンド後、渋野本人に聞いてみると、こんな答えが返ってきた。
「今週は回ったことがあるコースだし、2連続予選落ちもあって、ちょっと頑張らないといけんと思った。それまでは気持ち的にも“ズン”って落ち込んでいて、練習に行くのが嫌というわけではないけど、あまり熱心に取り組めていなかったという部分はありました」
オハイオで味わった悔しさがカンフル剤になったかのように、たまに軽い談笑を挟むこともあったが、基本的に黙々と課題克服に打ち込んでいた。もともと国内ツアーを戦っている頃から、渋野は練習の時間をしっかりととる選手の一人だった。話を聞こうと思って、あがりを待っていたら、すっかり辺りが暗くなっていた…ということも1度や2度ではない。
今、必要なこととして、渋野は次のようなことを考えている。「いろんな土台を積み重ねてきたから、それを試合で一回一回、一球一球試して、さらに積みかさねていく段階。その積み重ねができてくれば、きのう(「66」をマークした3日目)のようなゴルフもできる。ただ気持ちの問題できょう(「76」と崩れた最終日)のようなゴルフにもなる」。
試合のなかで得るものは大きい。もちろん2日間よりも、週末を戦ったうえでの4日間、さらに優勝争いなど緊迫した場面でならなおさらだろう。課題を一つずつ克服し、また試合のなかで新たな課題を見つける。時に進んだり、時には戻ったり。これが地力になっていく。
何も『長く練習していたことが美徳だ』ということを言いたいわけではない。シーズンを戦ううえで、最適なペースは本人やその周囲が一番よく把握しているはず。ただその光景、そして変化から、現在、渋野が抱えている課題が明確であることが感じとれた。それは『抑え目のショットの距離感』や『ショートパット』など“今週の目標”に掲げていたものと、目にした取り組みがきっちりとリンクしていたから。ここをつぶそうとしたら、それくらいの時間が必要だった、という風にもとらえる。
アンダーで回りながら、“モヤモヤ”したものを訴えていた予選ラウンドを終えると、3日目には「内容に納得できていることがうれしい」と一気に優勝争いに食い込んだ。しかし、最終日は「この3日間が台無しになった」と失速。浮き沈みの激しい4日間を過ごした。最終日の全組終了後。会場の撤去が進むなか、“居残り練習”をする渋野の姿があった。それは、すっかりひとけも少なくなり、間もなく夕方を迎える頃だった。「頑張らないといけん」。この4日間で“積み重ねた”ものが、さらにその思いを強くさせたのかもしれない。そんな姿に感じられた。(文・間宮輝憲)
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