19日まで行われていた国内女子ツアー「CAT Ladies」。その会場を歩いていると、選手のプレーとともに、所々に置かれたショベルカーが自然と目に入ってくる。もちろん開幕までに会場の設営が間に合わず、急ピッチで作業が行われている…というわけではない。同大会の主催は、重機メーカーのキャタピラー社。その製品が、“オブジェ”のように置かれているのだ。
【写真】18番グリーン横に置かれた重機の前でプレーする選手
優勝者には、副賞としてキャタピラー社から300万円以上する最新型のミニショベルカー「CATミニホイールローダ901C2」が贈呈される。そのため、他の大会では18番グリーン脇に副賞のクルマが置かれていたりするのだが、大箱根カントリークラブではショベルカーが鎮座。重機の前で、選手が真剣にラインを読むコントラストは絶妙だ。
では一体、どのようないきさつで、重機が副賞となったのか? キャタピラー社の営業支援部・田中賢一氏に聞いてみた。「キャタピラーという会社が重機を扱っているメーカーだということを、色々な方に知ってもらいたかった。それで『副賞として差し上げたらいい』ということで始まりました。大会開催当初は時計でした」。1997年に第1回大会が開催された今大会。当初はゴルフ場に重機を展示することができなかったという。そこで、自社の商品を知ってもらおうと始まったのが今に至っている。
現在はゴルフ場の協力も得て、会場で展示できるようになったのだが、やはりそのインパクトは絶大。かなり接近できることもあり、男心がくすぐられた著者は、一時仕事を忘れ、そのボディやキャタピラーなどを細部まで見まわしてしまったほどだ。ギャラリーだけでなくプロも、その前で写真を撮っている姿をよく目にした。
そんな光景を見ていて思った。「これまでに優勝した選手は、この重機をどうしているのだろうか?」。自宅マンションの駐車場に止めて、自家用で使用する…というイメージが湧かなかった著者。実際に歴代優勝者のもとへ向かってみた。
2016、17年大会覇者で“二台持ち”のイ・ボミ(韓国)は「(兵庫県にある所属先の)マスターズゴルフ倶楽部に贈呈しました。ずっとお世話になっているので」と、行き先を話した。ゴルフ場は重機が活躍する場面も多く、所属コースや地元のゴルフ場に寄贈されるケースは多いという。
また、2012年優勝者の全美貞(韓国)が獲得した副賞の行き先は、東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県にある農業高校だった。震災で授業に使うための重機が無くなり、この時の副賞が学校に寄贈された。「何か役に立てることがあればと思って寄贈しました。感謝の声も届いて、その時に(寄付して)よかったと思いました」と全は当時のことを振り返った。2014年優勝者の上田桃子も、大会前に起きた広島土砂災害の被災地に寄付。「早く復興して欲しいという一心でした。自分にできることがあれば」と、地元の機動隊のもとにわたり現場で活躍した。
この他、「地元に何か貢献できれば」と名古屋大学農学部に寄贈したのが愛知県出身の服部真夕(2015年優勝)。また2004年大会優勝者の木村敏美は、この副賞を狙って優勝。実際に自宅で使用している。
ちなみに今年の優勝者の大里桃子からは、また新たな“使い道”を聞くことができた。大里の父・充さんはキャディとして娘を支えているのだが、大里が小学生の頃から「娘が(CAT−で優勝して)重機を貰ったら、『うちの娘が獲ったんだー』って言いながら地元の農道を運転するって言っていたんです。なので…父と相談します」と笑いながら明かした。熊本県玉名郡南関町出身の大里。地元のあぜ道を、娘が獲得した重機で走るという父の夢を本当に叶えた孝行娘だ。
さまざまな形で貢献している重機たち。ゴルフのトーナメントが社会に与える影響の“別の一面”を、この大会で見たような気がした。(文・間宮輝憲)
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