今年もいよいよ「マスターズ」が近づいてきた。春の訪れを告げる華々しい戦いとして長くゴルフファンの心に刻まれてきたマスターズとはどんな大会なのか。同大会を放送するTBSの解説も務め、自身もマスターズで過去8位の成績を誇る中嶋常幸にその魅力を聞いてみた。
ANAオープンの会場から、女子プロたちがマスターズ優勝予想!【写真】
――中嶋さんもマスターズの季節が来ると心躍りますか?
そうだね。だいぶ昔のことですが、自分も行っていたころ、この4月になるとマスターズというのはもう、胸が躍る、心がワクワクする、そういう時期ですよね。
――マスターズというのはどんな大会なのでしょう?
的確に表す言葉というのはないですが、メジャーで毎年開催されて、一番最初にあるメジャー、何よりもオーガスタの伝統、その生い立ちから含めて、みんなが大事に育ててきた伝統、それを感じられる。マスターズは特別なんですよ。出ている選手にとっても、マスターズに出られたんだという。オーガスタの人たちも選手に対する最大限の敬意を払ってくれるし、練習するところからコース、その他全部、町全体から受ける1週間が夢のような1週間ですよね。
――あのマグノリアレーンを通る時は特別な気持ちなのでしょうか?
最初の2、3回は、あそこを通る時は必ず写真を撮っていましたね。祈念写真を撮りたいんですよね。クラブハウスの前のロータリーのところでマスターズのピンフラッグとマスターズのマークをかたどられたところで写真を撮りたいんですよね。とにかくそこで写真を撮ると「来たんだ」という気持ちになりますし、そのクラブハウスを抜けたところに、「ワー」っと広がるオーガスタのゴルフ場を見たときに、また写真撮って、というのが初出場から3回くらいはありましたね。
ゲームをどうしよう、試合をどうしようという前に、まず「写真撮ってくれる?」という感じになるような、試合が大事なのにというのはわかっているけど、そういう夢の国に来たような感じにさせてくれるんです。
――ゴルフのテーマパークのような感じでしょうか?
そうだね。僕はアメリカでワクワクするところといえば、限定されるんです。例えばディズニー。それからロケットを打ち上げるケープ・カナベラル、それとオーガスタですね。アメリカの中で、感動する場所として絶対にオーガスタが入ってきますね。そういうところですね。
――そんななか今年のマスターズの展開はいかがでしょう?
今年ほど大変な年はありませんよ。本命がたくさんいて、対抗がたくさんいて、穴がたくさんいる年はありませんね。めったにないですね。ぱっといっても10人、15人はすぐに出てきます。絶対的な選手は、一番強かった時のタイガーだけ。優勝候補に挙げられてその通り優勝したのはタイガーだけ。あとは「え?対抗にも穴にもいない」という人が勝っている。いいかえれば、オーガスタに出てくる選手の80パーセントは誰が勝ってもおかしくないんです。中には年齢がいった人も出てくるけど、そういう人たちを除いても80から85パーセントの人は、「この人が勝ってもおかしくない」という感じですよ。
例えば去年のパトリック・リードは本命にも対抗にも挙がっていなかった。そういう人が優勝したときでも、「勝ってもおかしくないよね」ということになるんです。そういう選手がほとんど出ているわけですから、誰が勝ってもおかしくない。
だけどその中でも、今年は強い選手がみんな勝ってきている。ベテランのミケルソンや若手のファウラーや他の選手もそうです。注目選手がほとんど優勝してオーガスタに乗り込んでくる。そういう試合を迎えられる今年というのは、大激戦になると思います。解説者冥利ですよ。一番いいところで見ている、最前列で見ている人間で、途中で解説を忘れてしまうかもしれない(笑)。「ワー、オー、スゴイ」それしか出てこなくなるかもしれないですよね。
――それでは優勝予想というところではいかがでしょう?
もちろんダスティンもそうですし、今年も2勝している。リッキー・ファウラーもアリゾナで勝っているし、去年もおととしもオーガスタで良かったし、TPC(ザ・プレーヤーズ選手権)でローリー・マキロイも勝ってきたし、そういうおなかペコペコ、おなかがすいてきた人が多いですね。
対抗でいってもジャスティン・ローズもいいですよね。ファーマーズ・インシュランス・オープンで勝った時の勝ち方は全盛期のタイガーに近い勝ち方です。本当に強い勝ち方。ミケルソンもペブルビーチで転機の悪い仲、月曜日まで延びた仲でも勝った。元気だぞという感じがしますし、タイガーも去年の優勝があって、そのあと古傷が痛いとかあったけど、順調にきている。タイガーも十分フィールドで戦えるなという感じはします。
松山も心配だったけど、今までは初日、2日目に出遅れて土日で上がってくる、そういうパターンが続いたけど、TPCでギリギリの予選通過から土日の2日間で11アンダーを出しているんです。このビッグスコアを出すというのは、何かいいものを発見したのだと思う。普段やっていない、努力をしていない人間はゼロからやらないといけないけど、松山のように努力をして練習もしてきた人間は、何かをぱっと発見する時があるんです。それは彼が何かのヒントをつかんだという風になってくれれば、オーガスタでも十分、初日のグッドスタートが条件だけれども、それを切ってくれれば面白いと思います。
次回は、マスターズの思い出のシーンなど、マスターズが持つ魅力を語ってもらう。
中嶋常幸(なかじま・つねゆき)
1954年10月20日生まれ、群馬県出身。父の英才教育によりジュニア時代から全国に名前が知れ渡った中嶋。73年の日本アマを当時の最年少18歳で制覇。75年にプロ入りすると、翌年初優勝。数々の記録を打ち立てた。88年の全米プロでは日本人最高位となる3位。メジャー4大会ですべてトップ10を果たした最初の日本人選手となった。マスターズには過去11回出場し、86年には8位に入っている。日本通算48勝。2019年には日本プロゴルフ殿堂入りを果たしている。静ヒルズCC所属。
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