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祭りから祭りへ、そして「ゴルフの祭典」へ【舩越園子コラム】

「マスターズ」開幕前週、米ゴルフ界の様々なウエブサイトでは、早くも2020年マスターズの観戦チケットの申し込み方法が紹介されていた。オンライン申請を済ませたら、例年7月に行なわれる抽選を待つ。当選者はEメールで通知され、練習日なら75ドルで最大4名分、試合の日は115ドルで最大2名分まで購入できる。
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ふと見ると、その傍らには、「オーガスタナショナル女子アマチュア」観戦チケットの申請方法も紹介されていた。同大会はマスターズ委員会によって創設され、今年から始まった新大会だ。マスターズウィークの前週、3日間の日程で開催され、最初の2日間は近郊のゴルフ場で、最終ラウンドはオーガスタで行なわれるという形式となっている。
「全米女子アマ」、「全英女子アマ」、「アジア・パシフィック女子アマ」といった世界の女子アマチュアのビッグ大会優勝者、あるいは米国や世界のアマチュアランキングのトップ30などに出場資格が与えられ、最終ラウンドの舞台はオーガスタとくれば、まさにこの大会は“女子アマチュアのマスターズ”と呼んでも過言ではない。
最終ラウンド進出が叶った女子アマチュアは夢見心地でマグノリアレーンを通り抜け、テレビでしか見ることはないと思っていたオーガスタで「まさか私が？」と胸を躍らせながらプレーした。日本からは安田祐香が出場し、見事3位タイになった。松山英樹や小平智らとオーガスタで言葉を交わす機会にも恵まれた。
過去には閉鎖的だと批判さえされていたオーガスタの土を女子アマチュアたちが踏み、その戦いを観戦するチケットも販売されるようになり、さらにその翌日は子供たちが腕を競い合うドライブ・チップ・パット選手権。
そうやってオーガスタの門戸がどんどん開かれれば、これまでマスターズに対する興味や関心があまり無かった人々も、その存在を意識するようになっていく。それがマスターズ委員会やオーガスタが目指す「ゴルフの普及」であり、彼らの創造性と実行力は、まさに世界のゴルフ界の模範と言える。
だが、今年は、その陰で苦悩した人々もいた。例年、マスターズ前週は女子プロゴルフ界のメジャー大会である「ANAインスピレーション」が行なわれ、優勝者がクラブハウス前の池に飛び込む姿を見たら、その翌日からは男子のメジャー大会であるマスターズへ視線を移すのが、ゴルフファンの長年の“流れ”だった。
そのANAインスピレーションと同週にオーガスタナショナル女子アマチュアが初開催された今年、人々の興味や関心がオーガスタ側に奪われてしまうことにマイク・ワン会長率いる米LPGAは頭を抱えていた。
「注目が奪われると思うならアマチュアに負けないようにプロが頑張るのみ」という声が上がった。確かに、そこは女子プロたちと米LPGAの踏ん張りどころではある。
だが、ANAインスピレーションとオーガスタナショナル女子アマチュアの双方の出場資格を得たアマチュアは、この2試合が同週開催となったがゆえに、自身が踏ん張る以前に、どちらか一つを選ばざるを得なくなった。そんな難しい決断を若きアマチュアたちに迫るのは残酷だという批判も上がった。
結果的に4名のトップアマは「これまでもお世話になった大会だから」「最高レベルのプロたちの中で戦いたいから」という理由でANAインスピレーションを選んだが、両大会の開催時期については今後、双方が話し合い、調整すべき点である。
とはいえ、新しいモノゴトに課題は付きものだ。初めての試みを実践した今年は、そうやって課題が見えたことが収穫だったと言っていい。
そして、蓋を開けてみれば、オーガスタではトップアマたちが、ANAインスピレーションではトッププロたちが、それぞれに好プレーを披露してくれた。そうやって今年のマスターズ前週は女子ゴルフの二つのビッグ大会で盛り上がる「女子ゴルフ祭り」になった。
続いてオーガスタではドライブ・チップ・パット選手権が行なわれ、「子供たちのお祭り」が終わると、いよいよ「ゴルフの祭典」マスターズが開幕する。
そうやって眺めれば眺めるほど、完成度の高い流れが形成されていることにあらためて感嘆させられる。オーガスタはゴルフ界のシュラインとして、ますます輝きを増し、それでもなお努力と工夫を怠らない。
マスターズは、そんな彼らの努力の結集であることを、頭の片隅に留めつつ、今年の名手たちを応援しようではありませんか。
文・舩越園子（ゴルフジャーナリスト）
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