国内女子ツアーは先週の「ニチレイレディス」を終え、折り返しまで残り1試合となった。前半戦を振り返った時、目ざましい活躍を見せた1人の選手に、上田桃子らを指導するプロコーチの辻村明志氏は注目した。それが穴井詩だ。すでにトップ10入りは6度。獲得賞金も約4062万円(9位)と、ハイペースで結果を残す穴井に、どのような変化が見られるのか? 辻村氏に聞いた。
ツアーNO.1飛ばし屋 穴井詩のドライバースイング【連続写真】
■「尻上がりの上位争い」を続ける今季
2016年の「ゴルフ5レディス」でツアー初優勝、17年には「センチュリー21レディス」も勝ち、今季いつ3勝目を挙げても不思議ではない活躍を続けている穴井。もちろん12年に初シードを獲得してから、その座を守り続けている選手とあって実力者というのは言うまでもない。しかし今季は、“毎試合”と言ってもいいほど強い存在感を発揮している。
「最近の穴井選手を見て、これまでの経験値をうまく生かしているなと感じます。最終日に上位争いを続けている時などには特にそうですが、スコアを伸ばすコツや、風などの状況判断はやはりベテランと呼ばれる選手が有利になってくる。ここまで味わった悪い経験なども、うまくフィードバックしてますね」
辻村氏は、今季の穴井をまずはこう評した。そして、「これまでは尻つぼみの上位だったのが、今季は尻上がりの上位という試合が多い。最終日に崩したという経験を自問自答したこともあったと思います」と続けた。ここまで優勝争いをしていても、最終日に崩れて惜しくも栄冠に届かず…という穴井の姿を何度も見てきたというが、そんな“もろさ”を今季は感じることはない。
開幕戦の「ダイキンオーキッドレディス」で3日目の9位タイから、最終日に「69」をマークしての2位タイや、「KKT杯バンテリンレディス」(2日目22位タイ→最終日4位タイ)など、ラスト18ホールでチャージを見せる試合が多い。第4ラウンド平均ストロークは「71.2500」の8位。3日間競技を含めた最終ラウンド平均ストロークも「71.2163」13位と上位につけており、その印象は数字にも表れている。
これについて穴井本人も「去年以上に最終日に集中してできています。アメリカでゴルフをやっていたときのコーチに『昨日よりも何か良くしなさい』と言われてきましたが、今年はその気持ちが強くなっています」と、メンタル面での変化を語る。そして2季ぶりの優勝まであと一歩という現状につなげている。
■穴井をよく知る辻村氏が語る“脅威のパワー”
辻村氏と穴井は、10年ほど前に同じ江連忠ゴルフアカデミーでゴルフの腕を磨いた“同門”。穴井のキャディを辻村氏が務めたこともあるほど関係が深く、その当時から持つ「日本の女子ゴルファーのなかで、一番体が強いというのは断言できますね」という印象は今も変わらない。「軽々と懸垂を繰り返していた」と辻村氏が振り返るそのフィジカルが、今でも試合を滅多に休むことない“鉄人”の礎になっている。「肉体的、精神的にタフ。これはプロである以上必要なことですね」。こう絶賛する。
そして、その体の強さはプレー面でも当然生かされている。その一つが「ラフからのショット」だと辻村氏は言う。ドライビングディスタンスは「257.83ヤード」で現在1位と、その飛ばし屋ぶりは衰えを知らない。しかし、フェアウェイキープ率は「54.0%」の96位と、多くの飛ばし屋がそうであるように、素直に真っ直ぐ飛んでいく、というわけではない。
だがパーオン率は「71.4%」で9位と、高水準をキープしている。ここに、穴井の強さが見えてくる。「ラフに入った時、普通の選手が打つのに困るような位置でも、浅いラフと言わんばかりに軽々と打ちます。ラフでパワー負けしない。もちろんフェアウェイキープ率は高いに越したことはないですが、穴井選手は、そこは気にしていない。その分フライヤーの計算や、芝の切り方がうまい。距離がある分、短い番手で打てるのはもちろんですが、ラフの経験値も高いですね」と辻村氏。さらに、穴井のパワーが分かるこんなエピソードも教えてくれた。
「ヘッドスピードが速いし、パンチ力もすごい。その分、スピン量もものすごくて、長いクラブだと戻りすぎて困るほど。女子で、戻さないように打つ選手は珍しいです。今では笑い話になっていますが、キャディを務めた試合で、一度はグリーンに乗ったボールが、スピンで6回外に出た試合もありました。それは、ボールを後ろからつけられる技術もある、ということでもあります」
圧倒的飛距離を生み出す穴井のパワーは、やはり規格外なようだ。
■パットの安定は好成績に不可欠
この他、穴井のパットにも進化を感じる辻村氏。「これまでは短いパットを外す場面も目にすることが多かったですが、今年は外す雰囲気がありませんね」と、グリーン上で安心してプレーを見ることができるようになったと話す。数字にもそれは表れており、今季パーオンホールでの平均パット数は「1.8162」の18位。16年が「1.8345」(43位)、17年が「1.8245」(31位)と優勝を挙げている2年と比べても飛躍的に伸びている。これは、賞金約6578万円を稼ぎ、これまでのキャリアハイとなった14年の「1.8141」(34位)にも近いスタッツだ。
穴井自身は、「パットに関しては、むしろ毎週試行錯誤です。スタンス幅だったり手の位置だったり毎週探しています」と笑うが、スタッツの向上について、こんな心当たりも口にする。「去年よりもコースの下調べをするようになって、マネジメントが良くなったことで、打ちやすい位置につけられるという場面が増えました」。安心して打てる位置から、パットを打つことができ、それが安定感につながっている、というわけだ。
「グリーン上のスタッツも伸び、まさに“パット・イズ・マネー”という言葉を体現するようなシーズンを送っていますね。これまでのキャリアで最高の一年になると思います」
辻村氏は最後に、こんな言葉を口にした。優勝こそないが、各大会での順位や出場ラウンド数をポイントに換算し、年間を通じての総合的な活躍度を評価するメルセデス・ランキングでは、今季3勝を挙げる鈴木愛に次ぐ2位(206.5pt)。今後もツアーを騒がせる活躍が続きそうだ。
解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、山村彩恵、松森彩夏、永井花奈、小祝さくらなどを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。
<ゴルフ情報ALBA.Net>