国内女子ツアーは先週の「アース・モンダミンカップ」で、前半戦が終了した。その大会で最後まで優勝した申ジエ(韓国)に食らいついたのが、2位タイとなった原英莉花だ。昨年初シードを獲得すると、今年6月の「リゾートトラスト レディス」ではツアー初優勝をつかんだ。着実にステップアップを続ける“大器”は、上田桃子らを指導するプロコーチの辻村明志氏も注目する選手の一人。そんな20歳の躍進を支える要素を辻村氏に聞いた。
下半身が魅力的!原英莉花のドライバーショット【連続写真】
■大きな魅力、ドライバーショットのヒミツ
原といえば、やはり師匠のジャンボこと尾崎将司譲りともいえる豪快なドライバーショットが魅力の一つ。今季のドライビングディスタンスは250.18ヤードの5位で、実際にスイングを見ると、その数字だけでは測れない迫力がギャラリーの歓声を引き出す。辻村氏は、原のスイングについて、真っ先に以下のポイントを挙げた。
「全身を使って打てていますね。例えば、テークバックから下半身、つまり両もも、両ひざを結ぶラインが地面と平行をキープする時間が長く、流れない。上半身と下半身が同じ方向に流れるとタメができませんが、原選手は下半身の位置をキープしたまま、上半身が回るのでそれだけ捻転差が大きい。ここでしっかりとタメたパワーが、ヘッドスピードの加速を生み、インパクトの瞬間に一気に解放されます。すべての動きに連動性があり、止まったり、つまるような部分も見られませんね」
原本人に聞くと、現在のヘッドスピードの平均は44〜45m/s。一般的な女子プロは42m/s程度といわれており、やはりそのスピードは群を抜いている。さらに「最近はヘッドスピードが前より落ちています」と話しており、現在が最大の数値というわけではないというから驚きだ。ドライビングディスタンス順位とフェアウェイキープ率順位を合算したトータルドライビングは、昨年も9位と好成績だったが、今年は4位とレベルアップ。精度も増していることがみてとれる。
「去年は切り返しの時に1度頭が落ちてしまい、それがタイミングを狂わす原因にもなっていましたが、今年はこの動きが小さくなっていますね。どれだけ飛ばせても、やはり最後に大事なのは精度。女子であれだけ強く引っぱたける選手はいないうえに、体の上下、また左右の動きが少なくなりました」と辻村氏。さらに「スイングアークが大きくゆったりしているのに、スイングにキレがありますね」など、長所が次々と辻村氏の口からこぼれてくる。
この力強いスイングの時に、原が一番意識する箇所は「お腹」だという。「パンチを打つ時も、手ではなく、お腹に力を入れますよね。それと同じです」。ジャンボ邸で行うタイヤ引きなどのトレーニングで養ったフィジカルを基礎にし、この意識でパワフルなスイングを生み出している。
■精度を増す100ヤード以内のプレー
もともとドライバーショットは持ち味の一つだが、辻村氏が今季目を見張るのが「100ヤード以内のショットの精度」だ。「飛距離があるからウェッジ勝負になる場面も多いですが、そこでピンにつけられないという場面を昨年はよく見ました。グリーンを外した時のアプローチもそう。でも今年はそれらの精度がよくなりましたね」。リカバリー率を見ても、昨季54.4928%で84位だったものが、今年は60.0%で46位と、データからもそれはうかがえる。
もともと辻村氏は「飛ばし屋といわれる選手のなかでも、原さんはアイアンもうまく、しっかりとダウンブローで打って、球のとらえ方がいい」と評していたが、そこに小技の引き出しも加わりつつある。パーオン率は昨年が72.6190%の6位、今年も71.1111%の10位とツアー屈指のショットメーカーとしての顔も持つが、グリーン周りのレベルアップが今年の安定感を生み出す一つの要因になっている。
原はこれについて、「バンテリン(KKT杯バンテリンレディス)のあたりからフェードを打てるようになって、それが大きいと思います。もともとドローはクセみたいな感じで、意識的にフェードを打てるようになったことで、コントロール幅の計算ができるようになったり、スピン量も安定してきました」と話す。意識的に球筋を作ることが、ショットの精度につながっていると自己分析する。
実際にこのKKT杯バンテリンレディスで、今季初となるトップ5入り(4位タイ)を果たしてから、成績も上向きに。そこまでの5試合では、トップ10はおろかトップ20すらなかったが、6月の「リゾートトラスト レディス」での優勝をはじめ、KKT杯以降で5度のトップ10をマークしている。
「いいショットとミスショットの幅も少なくなりました。昨年までは、“いいところでやらかす”というイメージもありましたが、それが無くなりましたね。選手の立場からすると、最終日のいい場面で、相手がミスなどでスキを見せたら、『あー緊張しているんだな』と思ってスイッチを入れるポイントにもなる。今季の原さんはそういうスキを見せる場面が減りました」(辻村氏)
アース・モンダミンでも、暴風ともいえるほどの風に見舞われた最終日をパープレーで乗り切り、最後までジエに食らいついた。そこにかつての“もろさ”は見当たらない。「スイングの躍動感が将来性を感じさせますし、リゾトラではペ・ソンウさんという実績ある選手とのプレーオフを制した。先週もジエさんを最後の最後まで追い詰めたし、今後の活躍にも期待できますね」。原英莉花の成長曲線は、きわめて順調な弧を描いている。
解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、山村彩恵、松森彩夏、永井花奈、小祝さくらなどを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。
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