米国男子ツアープレーオフ第2戦の「BMW選手権」は、どの選手にとっても、それぞれに大きな意味のある正念場だった。そして、大会が幕を閉じた今、よろこびを噛み締めている人、落胆に暮れる人、悲喜こもごもの様子だ。
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最大のよろこびに浸ったのは、トータル25アンダーで優勝したジャスティン・トーマス(米国)だ。今季のトーマスは故障や体調不良で勝利から遠ざかっていた。今大会の開幕前の練習でも「ショットがボロボロだった」と語るほどだった。
だが、蓋を開けてみれば、初日からメダイナのコースレコード(当時)に並ぶ「65」で首位発進。3日目には前日に松山英樹がマークした「63」を上回る「61」でコースレコードを更新し、2位に6打差の単独首位で最終日を迎えた。
だが、スタート前から「とてもナーバスになっていて苦戦した」。一時はパトリック・カントレー(米国)に2打差まで詰め寄られた。それでも後半に徐々に盛り返し、最後は3打差で勝利したところに通算10勝目の貫禄が感じられた。
『今季、なかなか勝てなかったね』と問いかけられたトーマスは「これほどハイレベルなフィールドなのだから、そんなに簡単に勝てるはずがない」と一笑に付した。
なるほど、「なかなか勝てない」ではなく「勝てなくて当たり前」。かつて世界一にも輝き、「全米プロ」を制したメジャーチャンプであっても、そんなふうにゴルフを謙虚に見つめ続けていたからこそ、焦りや苛立ちからスランプに陥ることなく、正念場の大会で勝利を挙げることができたのだと私は思う。
この優勝でトーマスはフェデックスカップランク1位に浮上し、新システムで競い合う「ツアー選手権」を通算10アンダーからスタートする。今年から増額された15ミリオンのビッグボーナスに今一番近い位置に立ったのがトーマスである。
そして、トーマス同様、今季振るわなかった松山英樹も、この正念場の大会で調子が上がり、ランクも上げた。ツアー選手権出場が危ぶまれていた松山は、今大会で単独3位に食い込み、フェデックスカップランクを33位から15位へ上昇させ、ツアー選手権を通算3アンダーからスタートする。
一方、今大会を終えて、肩を落としながら去っていったのはタイガー・ウッズ(米国)だ。3日目と最終日に「60台半ばのスコアで回ればチャンスはある」と本人も気合いを入れ、その言葉通り、3日目は「67」で望みをつないだ。しかし最終日はスコアを伸ばせず、イーブンパーのラウンドで37位タイどまり。フェデックスカップランク42位となり、ツアー選手権出場の道は途絶え、ウッズの今季はこれで終了となった。
「とても残念だ。去年のツアー選手権は僕にとってスペシャルだった。今年もあの場所へ戻りたかったけど、今年はテレビで観るよ」。落胆のせいか、発する言葉も弱々しかった。だが、なんとか気を取り直し、「メジャー15勝目を挙げ、5着目のグリーンジャケットを手に入れたことは、とてもスペシャル。僕はグリーンジャケットを羽織ったんだ」と胸を張った。
ウッズの次なる試合出場は日本で開催される「ZOZO選手権」。そのときまでに「肉体のある部分をもっと強化しなければいけない」と、すでに対策を練り始めている。
12月の「プレジデンツカップ」では米国キャプテンを務め、さらにプレイング・キャプテンとして臨む可能性もいまなお残されており、今のウッズは頭の中もスケジュールも満杯。がっかりしている暇はない。
そして、トップ30に入った選手たちの頭の中は、これから始まるツアー選手権のことでいっぱいのはず。ウッズを含め、トップ30に漏れた選手たちは、9月から早々に始まる来季のことをすでに考え始めていることだろう。
そう、米ツアーは止まらない。大きな正念場となったBMW選手権では、笑った人も落胆した人もいたが、それも“束の間の出来事”と思えるかどうかが、それぞれの選手の今後を左右するのではないだろうか。
文・舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
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