人気を高め、それを一過性のものにしないこと。競技人口を増やし、選手層を厚くすること。この課題に向けての継続的な努力こそ、すべてのスポーツ団体の使命といっても過言ではない。
ウッズとシブコの2ショット!【写真】
自国開催のワールドカップで、史上最高のベスト8という結果を出したラグビーワールドカップ日本代表チームは、そのことを肌でわかっているようだ。南アフリカ戦に敗れた後の彼らの言動の一部を見ただけでそのことは伝わってくる。
3度目で最後の大会と覚悟して臨んだ34歳の田中史朗は、テレビのワイドショーで「今、何をしたいか」を問われ、こう書いた。「普及活動」。すべてを犠牲にして臨み、日本中を感動の渦に巻き込んだ戦いの直後でこれを明言したのは、“冬の時代“を知っているからこそだろう。
堀江翔太もこんなことを口にしている。「2011年にニュージーランドでワールドカップを終えて帰ってきたら、記者は2、3人やったかな。今、目の前にこんなに(約200人)いることが信じられない。これを継続せなあかんと思います」。大会翌日、チームがそろった記者会見でのことだ。
爆発的な人気が出ているときこそ、おごることなくその先を考える。この視点が選手達にしっかりとある。競技を愛し、自分たちの先を考える。このチームの強さの奥底を見た気がした。
ワールドカップで急にラグビーを見始めた“にわかファン”について、ネットでは様々な意見が飛び交っている。だが“にわかファン”が増えたときこそ、競技を広める絶好のチャンスだ。誰にでも最初の一歩はある。“にわかファン”をできるだけ増やし、それを本物の応援団にする。少子化でどうしても競技同士が子どもの取り合いになる。そこで選ばれるためにはどうしたらいいか。特にラグビーのような激しいコンタクトのあるスポーツは「危ないから」と過保護度の増す保護者から敬遠されてしまうこともある。それでも、保護者がその競技を知り、ファンであれば話は違ってくるだろう。
高度成長期、まちがいなく日本で一番人気のあった野球人気がサッカーにとってかわられた裏には、まちがいなく業界のおごりがあった。時代が変わったことにも気づかず、スポーツ刈りどころか坊主頭が当たり前の中学、高校野球部。それが嫌で他のスポーツを選んだ人間は、そこら中にいる。地球温暖化で熱中症の危険が叫ばれる真夏に、甲子園での戦いが続けられている矛盾もその一つだ。プロとアマの関係についても、見直すのが遅かった。日本という井の中の常識にとらわれ、より広い世界に出ていく者が出てくるのにも時間がかかった。メディアがチームを持つことで報道とはとてもいえない伝え方をしているのは、今も変わらない。
これに対して、後発のサッカーは、Jリーグ発足時から地域に根ざした発展を計画し、世界との行き来も活発で、今では代表選手の多くが他国のチームに所属している。
他のスポーツはどうだろうか? プロとアマの世界があいまいになる中、それぞれが悩みを抱えている。ゴルフの世界もきちんと論議しなければならない根本的なことがたくさんある。
女子ツアーに限っていえばどうだろう?現在、人気があるのは、いうまでもない。ラグビー日本代表の言葉から学べるものがあるだろうか。
女子スポーツの世界で、プロとして稼げる種目は男子以上に限られる。それもあって早い時期からプロゴルファーを目指す子どもも多い。その一方で、費用が多くかかることや、ゴルフ場へのアクセスの悪さなど、楽しくプレーするスポーツとしてはハードルが高いのも事実。競技人口は減少の一途をたどっている。
そんな中、渋野日向子の「全英AIG女子オープン」優勝で、日本の女子ツアーには追い風が吹いている。これを一過性のものにしてはならないということは、これまでに何度も書いてきた。ツアーに関係する者すべてが、常に危機感を抱き、何年も先のビジョンを描いていなければいつ、何が起こるかわからない。特に、スポンサー企業に大きく寄りかかり、経済状況に左右されやすい今の仕組みの下ではなおさらだ。
選手の入れ替わりが激しく、ツアー出場者の平均年齢がどんどん若返っている現在、選手達の中に“冬の時代”を知る者はごくわずかしかいない。だが、女子ツアーにも何度か”冬の時代“はあった。試合がずっとあるのが当たり前ではないことを常に意識する。その必要性を若い選手達に伝え、選手以上に先を考えて動く。ツアー上層部には、その大きな仕事が課せられている。
ラグビーワールドカップは4年に1度で代表のメンバーも入れ替わる。そんな中で選手たちは、戦う場があって、人気のあるありがたみを心底わかっている。だからこそ、田中、堀江の発言がある。ラグビー協会はこれを無駄にせず、将来につなげていかなければならない。
シーズン中、毎週のように試合がある(今のところは)ゴルフツアーでは、これほど爆発的なことは起こりにくい。“シブコ現象”のようなことはごくまれで、人気が上下するのが目に見えにくくもある。そのぶん、冷静に調査、分析する必要がある。
世界的に話題となったラグビー日本代表の活躍から、スポーツ界はそれぞれ何を学び、何を考えるのか。アマチュアの古江彩佳が優勝したのも追い風の一つ。人気のある今だからこそ、女子ツアーが学ぶことも多いはずだ。(文・小川淳子)
<ゴルフ情報ALBA.Net>