日本で初開催された米国男子ツアー「ZOZO Championship」は文字通り、タイガー・ウッズに始まり、タイガー・ウッズで終わった「1週間+1日」だった。
“虎”がタイガーを熱烈応援?【大会フォトギャラリー】
千葉県のアコーディア習志野CCに詰め寄せた大観衆は、ウッズの一挙一動に歓喜の声を上げ、通算82勝が達成された歴史的瞬間を誰もが胸に刻んだ。
これまで25年間、私は米ツアーを取材し続け、タイガー・マニアと呼ばれた熱狂ファンの応援も間近に眺めてきたが、そのたびに日本のゴルフファンの観戦の仕方は、すこぶるおとなしいと感じていた。
米国のギャラリーが「タイガー!タイガー!」と大声を上げながら声援を送るのに対し、日本のギャラリーが興奮して狂喜の声を上げる場面を目の当たりにしたことは皆無に近く、それは日本人と米国人の国民性の違いなのかもしれないと思っていた。
だが、そうではなかった。順延された月曜日までの5日間にリーダーボードの最上段を目指していたウッズの戦いぶりに日本のファンは自ずと熱くなっていた。
虎の着ぐるみを着て歩く人。赤ん坊に虎のベビー服を着せた人。思わず走り出す人や飛び跳ねる人。いろんなスタイルで思い思いの応援をしていた。
悪天候の影響で無観客試合となった土曜日は、会場に入ることができず、フェンスの向こう側から「タイガー!タイガー!」と大きな声援が上がり、フェンスに張り付いてウッズを一目でも見ようと頑張る人々もいた。
2万2000人超が詰め寄せた日曜日。4重5重の人垣のさらに後方で、踏み台の上に立って眺める人々もいれば、木の上によじ登り、途中の枝に器用に足をかけて、まるでサーカスみたいな格好で陣取っている観客の姿も見られた。
そんなジャパニーズ・ファンの熱さは、百戦錬磨のウッズでさえ、「びっくりした」というほどのサプライズだった。これまで私が見てきた米国のタイガー・マニアをも上回るほどの熱心な応援ぶりだった。
素晴らしいものを目の当たりにした人々が、自ずと立ち上がり、スタンディング・オベーションで迎えるのと似ていた。心にしみる音楽を聴いて、自ずと涙があふれるのと似ていた。戦う選手の必死さが伝わってくると、自ずと共感し、気がつけば、選手とファンが喜怒哀楽をともにしている。
そんな現象が、ようやく日本のゴルフの大会の会場で起こってくれた。日本のファンがこれまで静かに観戦していたのは、国民性のせいではなく、自ずと熱くなれるもの、自ずと夢中になれるゴルフを、長い間、心待ちにしていたのだと思う。
習志野に集まった大観衆からは「こんな中でゴルフしてるって、すげえな、タイガー」と驚嘆の声も聞こえてきた。
そう、1996年のプロデビュー以来、ウッズはずっと「そんな中」で戦い続け、勝利を重ねてきた。そしてこの日、日本の大地の上で歴史的瞬間が刻まれ、その偉業を日本のファンの目の前で達成したことを、ウッズは生涯忘れないだろう。
「厳しい1週間だった。月曜日なのに、たくさんの人々が応援に来てくれた。日本のみなさんの温かいサポートに感謝しています。また来年、ここに戻ってきたい」
昨秋の「ツアー選手権」、今春の「マスターズ」、そして今週のZOZO。いずれもファンに押し上げられ、支えられて達成できた優勝だった。
日本のファンは米国のファンと同等、いやそれ以上に「優しいし、知識も深く、情熱的だ」。そんな印象を抱いたウッズは、また来年、必ずや日本に戻ってくるはずだ。
文・舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
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