2020年の初戦、「セントリー・トーナメント・オブ・チャンピオンズ」は昨季の優勝者34人がハワイ島のカパルアCCに結集。王者タイガー・ウッズや世界ナンバー1のブルックス・ケプカ(ともに米国)、ナンバー2のローリー・マキロイ(北アイルランド)の姿は無かったが、話題は実に多かった。
ジャスティン・トーマスのドライバースイング【連続写真】
初日に首位に立ったのはチリ出身の21歳、ホアキン・ニーマンだった。昨季に初優勝を挙げたニーマンは、「プレジデンツカップ」に初出場した際、「タイガー・ウッズと戦って彼を倒す!」と豪語した威勢のいい若者だ。
ニーマンのみならず、コリン・モリカワ、マシュー・ウルフ(ともに米国)など昨季初優勝を挙げた期待の若手たちは米ゴルフ界の未来を担う貴重な存在。今週は優勝争いに絡めなかったが、いずれも奮闘していた姿が印象的だった。
そんな中、2日目に一気に2位に浮上したのはパトリック・リード(米国)だった。リードと言えば、昨年12月の「ヒーロー・ワールド・チャレンジ」の際、バンカーの砂をソールで押し払い、「ライの改善」で2罰打を科せられた驚きの出来事が記憶に新しい。
翌週のプレジデンツカップではオーストラリアのギャラリーに激しく野次られ、挙げ句に彼のキャディがギャラリーにつかみかかり、最終日の個人マッチでバッグを担ぐことを禁じられる前代未聞の事態まで招いた。
そんな「とんでもない出来事」を経験しても、リードは今週のカパルアで優勝争いを演じたのだから、いい悪いはさておき、彼のメンタリティの強靭さには驚かされる。
「天候が荒れれば荒れるほど、僕はプレーに集中できる」
周囲の視線、激しい野次、アクシデントさえモノともしないリードにしてみれば、多少の天候の荒れは問題ではないのだろう。彼の言葉の中の「天候」を「環境」や「人生」に置き換えてみると、なるほどと頷けた。
メンタリティの強靭さと言えば、今大会にディフェンディング・チャンピオンとして臨んだザンダー・シャウフェレ(米国)が興味深いことを言っていた。プレジデンツカップでウッズの戦いぶりやキャプテンとして采配を振るう姿を間近に眺めたシャウフェレは「タイガーはどこで力を振り絞るべきかを知っている。欲しい結果を捻り出すことを知っている。僕はむしろ流れに身を任せてきたけどね」。
どうしても欲しいものを手に入れるためには、ときには無理も必要だ。もちろん、失敗すれば、大きく乱れ、後退も敗北もする。覚悟を決めて挑んだウッズの強靭なメンタリティと「ハイリスク、ハイリターン」の攻めの姿勢にシャウフェレは刺激を受けたそうだ。
そんなシャウフェレが今大会最終日を単独首位で迎えたのは、その成果だったのかもしれない。だが、ジャスティン・トーマス(米国)に追い抜かれた最終日、72ホール目でせっかく逆転のチャンスに恵まれながら、バーディーパットを沈めることができなかった。
リードを含めた3人によるプレーオフでは最初に脱落。残念ながらウッズのごとく欲しい結果を捻り出す妙技には一歩及ばなかった。
3ホールに及ぶプレーオフを制し、勝利を掴んだのはトーマスだった。同大会2勝目、米ツアー通算12勝目。27歳以前に12勝を挙げたのは史上4人目の快挙だ。
だが、勝利を決めたあとのトーマスはちょっぴり浮かない表情でこう言った。
「15番まではベストなプレーができていたけど、僕は今日、勝つべくして勝ったわけではない。優勝できたのはラッキーだ」
シャウフェレへの気遣いもあったに違いないが、勝利をもぎ取ろうとして勝ったわけではないことがトーマスの表情に陰りを落としていた。しかし、それは必ずや彼の今後の糧になるはずである。
ウッズに学んだシャウフェレ、逆風をも糧にしたリード、勝ってなお自身の勝ち方を冷静に振り返ったトーマス。やっぱり米ツアー選手たちは逸材揃いだ。
文・舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
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