新型コロナウイルス感染拡大の影響で、国内だけでなく世界各国で中止が余儀なくされているゴルフトーナメント。なかなか試合の臨場感を伝えることができない状況が続いています。そんな状況のなか、少しでもツアーに思いを馳せてもらおうとツアー取材担当が見た選手の意外な素顔や強さの秘訣、思い出の取材などを紹介。今回は1年前の「全米女子オープン」でのできごと。
今週は海外女子メジャーの「全米女子オープン」が行われる予定でした。大会は新型コロナウイルスの影響で12月という異例の冬開催へと変更になりましたが、1年前の大会は取材する者にとっては厳しい酷暑の中でのものでした。
サウスカロライナ州のチャールストンという場所で行われた大会は、連日最高気温が35度越え。コースは河川敷のようにフラットな形状で、日陰もほとんどなく体感気温は40度を超えていました。練習日には、選手の皆さんも早朝から練習ラウンドを行い、昼にはコースを後にするという状態。私は月曜日からコース入りしましたが、経費をケチってカメラマンを呼ばなかったため、重いカメラを2台持ち、倒れそうになりながら日本人選手を追いかけていました。
毎年何試合か取材に行きますが、海外メジャーというのは独特の場だと思っています。世界最高峰の戦いに日本人選手が挑むということもあり、選手、関係者、そして我々報道陣のあいだに、どこかチームのような雰囲気が生まれます。私が勝手に思っているだけかもしれませんが、日本の大会で取材に入るときと違って、困ったときには助けあうといった一種の一体感が醸成されると感じています。
昨年大会ではいろいろな出来事が起こり、そのたびに記者(兼カメラマン)の立場を越えた仕事をすることになりました。日本でも注目度が高い大会であると同時に、現地のメディアや大会主催のUSGA(全米ゴルフ協会)も日本人選手には注目していました。そんな日本人選手の声を聞こうと、大会関係者や海外メディアがインタビューを試みますが、私が英語を話せることを知っている大会広報や日本人選手から、通訳をお願いされることがよくあります。
そんな中で起きたのが鈴木愛プロの“落としもの事件”です。今なら時効かなと思うので、現地で起きた緊急事態をご紹介します。
大会開幕2日前の火曜日。突然鈴木プロから電話がかかってきました。現地では何があるか分からないので、お互い連絡先を聞いておくことが多いのですが、あまり電話を受けることはありません。何事かと思い電話に出ると、沈んだ声の鈴木プロが一言。「財布を落としてしまったんです…」。すでに宿舎に戻っていた鈴木プロがコースに戻ってくるのを待って、私は大会本部、落とし物管理事務所、警備事務所、鈴木プロがその日、立ち寄った場所などを一緒に探すことにしました。
ところが、どこに行っても財布は見つからないし、届けられてもいない。現金こそあまり入っていなかったようですが、カード類などは面倒なことになる。いつも明るく元気な鈴木プロも顔面蒼白で、見ていて気の毒になってしまいました。なんとか見つけないと…。とにかく各方面にあたって、見つかったら私に連絡が来るように手配し、鈴木プロには少し現金をお貸しし、いったん宿舎に戻っていただきました。
そして、翌朝。鈴木プロから1件のメッセージが入ってきました。「財布見つかりました!! カバンの小さいポケットに入っていました」。思わずずっこけてしまったのを覚えています。メッセージでも丁寧なお詫びをいただき、コースに来られた鈴木プロは照れくさそうに「お騒がせしました…。すみません…」と平謝りでしたが、とにかく見つかって?良かった…。賞金女王のちょっと恥ずかしい、でもかわいらしいエピソードです。
海外ではなぜか事件が起きるもの。今年も海外メジャーには行く予定ですので、できることがあれば、皆さんぜひ頼ってきてください。もちろん本業は記者ですが、困ったときはお互い様。できることはしますので、何かあれば遠慮なく言ってくださいね! もちろん何も起こらないのがいちばんですが。(文・高桑均)
<ゴルフ情報ALBA.Net>