世界選手権シリーズの「WGC-フェデックス・セントジュード招待」は最終ラウンド半ばで首位に5人が並ぶ混戦状態だったが、優勝争い終盤はブルックス・ケプカとジャスティン・トーマス(ともに米国)の2人に絞られ、最後は2位に3打差でトーマスが今季3勝目、通算13勝目を飾り、世界ランキング1位へ返り咲いた。
トーマスは今大会と来週の「全米プロ」では、体調不良のレギュラー・キャディ、ジム・ジョンソンの代わりにフィル・ミケルソン(米国)の長年の相棒キャディだったジム・“ボーンズ”・マッケイを起用。そして偶然にも今大会最終日はトーマスとミケルソンが同組になり、ミケルソンとボーンズの旧コンビが顔を合わせることになった。
その偶然が彼らのパフォーマンスにどんな影響をもたらすのかが注目されていたが、結果を見れば、トーマスは優勝、ミケルソンは2位タイ。彼らが同組になったことが、彼らに好影響もたらしたことは確かだ。
その昔、プロ入りしたばかりのミケルソンが初めてボーンズとタッグを組んだ場所は、今大会と同じメンフィスだった。あれから26年。懐かしい場所で懐かしい感覚が蘇り、それがミケルソンにとってもボーンズにとっても新鮮な刺激となり、ミケルソンを2位タイへ引き上げ、ボーンズのキャディとしての感覚を研ぎ澄まし、それがトーマスを勝利へ導いた。そんな気がしてならない。
ゴルフはメンタルなゲームゆえ、偶然との遭遇には想像以上に左右される。そして、偶然との遭遇を自分にとってのチャンスと捉え、生かすことができるかどうか。それが勝敗を左右することになる。
最終日の終盤、勝利を競い合っていたトーマスとケプカは、どちらも元世界NO.1だが、そんな強者たちでも大詰めでは明らかに心の動揺が見て取れ、ショットを右へ左へ曲げる場面が多かった。コロナ禍でツアーが休止され、いわゆる試合勘が鈍っていることは否めない。さらに言えば、トーマスはほぼ半年、ケプカはちょうど1年、優勝から遠ざかっていることで、いわゆる勝ち癖、勝つための勘も鈍っていたのだと思う。
16番でボギーを喫し、トーマスと2打差に後退したケプカは、続く17番で20m超の長いバーディパットをカップに流し込み、トーマスを再び捉える絶好のチャンスを自ら生み出した。それなのに18番のティショットを池に入れて自滅した。
ケプカは今大会からパット専門コーチのフィル・ケニョンに指導を仰ぎ、その効果は各所に出ていた。だが、大詰めでモノを言ったのは、メンタル面の揺れが生み出したショットのミスだった。それはなんとも皮肉だったが、何かが良くなれば何かが悪くなり、決して完璧にならない。それがゴルフだ。
トーマスも終盤はショットが乱れ気味だった。15番でもティショットは大きく左へ曲がったが、予想外のナイスキックでグリーン手前の好位置へ。「あのラッキーキックから僕は冷静になれた気がする」。
15番、16番で連続バーディを奪い、17番、18番は冷静で安全なプレーでパーセーブ。15番で得た偶然のたまものをビッグチャンスと捉え、そのチャンスを生かすことができたからこそ、トーマスは勝利することができたのだ。
今季は10月の「ザ・CJカップ@ナインブリッジ」と1月の「セントリー・トーナメント・オブ・チャンピオンズ」を制して、すでに2勝を挙げていたが、コロナ禍でのツアー再開後は「なかなか勝てず、苦しかった」。「ワークデイ・チャリティ・オープン」では新鋭コリン・モリカワ(米国)にプレーオフで見事に打ち破られ、その上、ジャック・ニクラスから早とちりの祝福メールを送られ、翌週は相棒キャディが体調不良でバッグを担げなくなり、コーチで父親のマイクが臨時キャディを務めるなど「災難」続きだった。
そんな中、ベテラン・キャディとはいえ、相棒キャディほどトーマスのゴルフを熟知してはいないボーンズを起用したことは、結果的に功を奏した。いや、トーマスがそうなるように努めたのだ。
「ボーンズは、まだ僕のゴルフをよく知らない分、僕のほうが主導することが多かったけど、それがいいコンビネーション、いいプレーにつながった」。
ハイレベルな戦いになればなるほど、勝敗を左右するもの、勝敗を分けるものは、技術ではなくメンタルだ。偶然の出来事をチャンスと捉え、チャンスを心で生かす。
その大切さを、あらためて教えてくれたトーマスの勝利だった。
文・舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
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