開幕戦から1カ月半空いて行われた国内女子ツアーの第2戦、「NEC軽井沢72ゴルフトーナメント」は19歳のニューヒロイン、笹生優花が最終日に9つスコアを伸ばして優勝した。開幕戦に続き、笹生をはじめとするシードを持たない若い選手の活躍が目立った。この大会を石井理緒のプロコーチ兼キャディとして現場で見ていた栗永遼氏に話を聞いた。
「お客さんがいないからQT選手はチャンスなんです」と栗永氏はいう。いったいどういうこと? 「QT選手たちはお客さんがいない中でスコアを出す環境にいました。普段通りだからそのままできちゃう。でもシード選手は何年もお客さんがいる中で試合をしてきたから、逆に慣れていないんです。これはモンダミンのときから思っていました」というのだ。
ここに興味深いデータがある。開幕戦の「アース・モンダミンカップ」には、シード選手が44人出場して、予選を通過したのは29人(予選通過者は56位タイまでの70人)。渋野日向子や有村智恵といった実力者も予選で姿を消している。次に「NEC軽井沢72ゴルフトーナメント」にはシード選手が39人出場して、予選を通過したのは23人(予選通過者は45位タイまでの55人)。ここでは上田桃子やテレサ・ルー(台湾)が予選落ちした。決勝ラウンドの半分以上の席は、シードを持たない選手で埋められていたことになる。
「笹生選手もそうですけど、2戦連続でトップ10に入った西郷(真央)選手もお客さんの前でゴルフをしていないんです。やっぱりお客さんがいないと、コースってすごく広く見える。(選手とギャラリーを区切る)ローピングもないし、お客さんが入ったらコースはもっと狭く感じるはずです」。ギャラリーがいない大会では、その雰囲気だけでなく、コースの広さも変わってくるというのだ。
「広ければ曲がってもどうなるかって考えられるから、ビビらずに振っていける。でもお客さんがいたら考えられないですよね。当てたらどうしようとも思いますし」。確かに素人目線で考えても、フェアウェイの両ワキにギャラリーがびっしり立って、自分のショットに注目されたら、いつものスイングはとてもできそうにない。
「モンダミンもNECも予選を通過した人数はQT組のほうが多いんですよ。毎週お客さんを入れてやっていたら、経験と技術があるシード選手のほうが強いと思います。試合間隔が空いている中での無観客だからこそ、今はQT選手にチャンスがある。無観客での開催が続けば、若手の活躍も続くと思います」
次の話題は優勝した笹生について。「NEC軽井沢72ゴルフトーナメント」の初日。栗永氏がバッグを担ぐ石井理緒の前の組に笹生がいた。10番スタートの最終9番で驚きの光景を目にしたという。
「9番ティに来たら、誰も届かない誰も超えないバンカーを、笹生選手が一人だけ超えていたんです。選手もキャディもみんなで『えっ!』ってなりましたよ。ヤーデージブックを見たら290ヤードくらい飛んでいた。しかもアゲンストなんですよ。そこからピンまでは200ヤードないくらい。セカンドは5番アイアンで打ったと言っていました。それを奥のバンカーに外してパーでしたね。ドライバーは他の選手よりは40〜50ヤードくらい前に飛んでいる。今はお客さんは入れないんですけど、生で見てほしい選手ですね」
標高が高い軽井沢とはいえ、アゲンストの中で290ヤード飛ばしたドライバーもすごいし、残り200ヤードを5番アイアンでオーバーさせるのもすごい。今年はまだ、ドライビングディスタンスの計測が行われていないが、おそらく笹生の飛距離は国内女子ツアーではぶっちぎりの1位だろう。ところが栗永氏は意外にも、ドライバーよりもパッティングが上手いと感じたという。
「ボールの転がりがすごくきれいで、絵に描いたような順回転のボールを打つんです。昨年の賞金女王、鈴木愛選手にも言えることですけど、パッティングが上手い選手は本当に緩まない。インパクトというよりフォローまで一気にいく。だけど笹生選手は無理矢理フォローを出している感じもない。すごくナチュラルなんですよ」
笹生は初日「65」、最終日「63」と、スコアを大きく伸ばした2日間は、18ホール中16ホールでパーオンしている。「16回パーオンさせるのもすごいですけど、それだけで9アンダー(最終日)は出せない。テレビでハイライトを見ても、そんなにビタビタはピンについていなかった。ミドルパットのバーディが多い印象です。そこはやっぱりパッティングですよね」。
笹生本人が真似したのは「スイングはマキロイで、パッティングはタイガー」。ほぼすべてのゴルファーがうらやむ最強の組み合わせではないか。日本には収まりきりそうにない笹生の飛距離とスケール感に、ある女子プロはこうつぶやいたという。「早くアメリカに行かないかな」。
解説・栗永遼(くりなが・りょう)/1995年生まれ。香川県出身。昨年はプロキャディとして淺井咲希のツアー初優勝に貢献(自身もキャディとして初優勝)、そしてプロコーチとして石井理緒のサポートも行っている。YouTubeチャンネル「GOLF BASE TV」では、石川遼のキャディや渋野日向子のキャディと対談を行うなど、トーナメントのこぼれ話やゴルフの楽しさを発信している。
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