世界で50勝以上挙げ、海外メジャーは2勝。米韓で賞金女王に輝き、世界ランキング1位となったこともある申ジエ(韓国)。2020年もわずか8試合の出場で2勝を挙げるなど今なおバリバリの実力者だが、その一方で、日本ツアーを愛し、常々「若手の壁になりたい。後輩達に多様な技術を見せるのも私の役目」と話すツアー全体の発展を願う選手でもある。そんなジエに、日本が誇る選手たちをどう思うか聞いてみた。
今回はメルセデス・ランキングで2位、賞金ランキングでは3位につけている古江彩佳について。古江は19年にアマチュア優勝を成し遂げ、プロ転向してからも3勝と、安田祐香、西村優菜、吉田優利ら2000年度生まれの“プラチナ世代”のなかで完全に抜きん出ている。もはやツアーを代表するトップ選手と言ったほうが正しいのかもしれない。最新の女子世界ランキングでは、8位の畑岡奈紗、15位の渋野日向子に次ぐ日本勢3番手の24位につけていて、東京五輪代表に選ばれる可能性も大いにある。
昨年の最終戦、「JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ」2日目に、ジエと古江は同組で回っている。そのときは古江が、バックナインだけでチップイン・イーグルを2回獲るなど「66」をマークして、「67」のジエを上回った。ジエは古江のどこに強さを感じたのだろうか。
「本当に彼女自身の目標が明確、鮮明。自分の進むべき方向がはっきりとわかっていて、何に対してもブレない。古江さんが持っている基準もすごくしっかりしているので、本当にパワーを感じます」と褒め言葉が並ぶ。
JGAナショナルチームで古江を指導したガレス・ジョーンズ氏も「コース上では感情の起伏が少なく、興奮もしないし落ち込むこともない。おそらく、世界の強豪選手とラウンドしても、きっといつもの自分と変らないでプレーするのでは。それくらい心理的なコントロールができる選手で、内に秘める決意が非常に強い」とジエと似たような感想を持っている。
そんな古江には、優勝圏内で迎える最終日の前日に必ず口にする言葉がある。「あしたも楽しんでやりたい」。本人は『楽しむ』についてこう言及している。「1打1打ミスしても楽しく前向きに考えることが、楽しくできることかなと思っています」。ジエのいう「ブレない強さ」の根幹には、ミスを引きずらない『楽しむ』ゴルフがあるのだ。
アマチュア時代に活躍した選手でも、プロになった途端、成績が出なくなることがある。ゴルフが職業になると、楽しめなくなるからだ。しかし古江には当てはまらない。「アマチュアで見たときから非常にしっかりしている選手だと思っていました。プロになってより彼女の目標設定がはっきりとして、淡々とやるべきことをこなしていく姿が、本当に魅力的だなと思います」とジエは話す。
3日間ボギーフリーでプロ初優勝を挙げた昨年の「デサントレディース東海クラシック」では、さすがの古江も緊張を感じていた。「プロとしての初優勝を意識したのか、後半からだが動かなくなってきた気がしました。守らなくてはいけないけど、攻めなくてはいけないという気持ちが邪魔していた」と語っている。
「古江さんに限らず、一緒に回る若い選手が緊張している姿やひたむきな真面目さを見ると、かわいいと感じるし、うらやましい気持ちもある」とジエはいうが、古江の勝ち方は、かわいさや初々しさの段階を超えている感はある。プロ1勝目と2勝目はともにプレーオフで30センチにつけるスーパーショットで勝利をもぎ取り、3勝目の「大王製紙エリエールレディス」では2位に3打差をつけて逃げ切った。
韓国と米国で賞金女王に輝いているジエだが、まだ日本で女王のタイトルは獲れていない。同じく賞金女王を目指す古江と優勝争いや賞金争いになったとき、勝負強さを発揮するのはいったいどちらなのだろうか。古江の安定感や勝負強さは、ジエのそれに着実に近づいている。
申ジエ(しん・じえ)
1988年4月28日生まれ、韓国全羅道出身、スリーボンド所属。155センチという身長で母国韓国、そして米国の賞金女王に輝いたジエが、日本ツアーを主戦場に移したのが2014年。「温かい人間味を感じる国でやってみたい」というのが理由で、本格参戦後は元世界ランク1位の名に違わぬ実力でカップを積み重ねている。また、たびたび児童施設に寄付するなど人格者としても後輩たちの良い手本に。米ツアー時代は最終日に無類の強さを発揮することから“Final Round Queen”と呼ばれており、日曜日の強さは日本になっても変わることはない。
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