「全米女子オープン」で史上最年少優勝を成し遂げた笹生優花。そのスイングは、笹生にとっての“アイドル”で世界屈指の飛ばし屋、ローリー・マキロイ(北アイルランド)をモデルに作り上げた。キャリーで250ヤードを超えることもある笹生のスイングを、米国女子ツアーの中継で解説を務めることもあるプロコーチの石井忍氏に解説してもらおう。
マキロイは体を左に向けておいて右に打ち出していくハイドローで、ビッグキャリーを生み出す。19年に日本で開催された米国男子ツアー「ZOZOチャンピオンシップ」では、マキロイのスイングを一目見ようと集まった日本のコーチ陣たちも球の高さに度肝を抜かれた。
「マキロイはけっこうインサイドアタックが強い。笹生さんのほうがクラブ運び自体はマキロイより良いといってしまっても良いかもしれない。クラブの入ってくる軌道がストレートに近くて薄いドローを打っている印象です」と石井氏は笹生のスイングを見ている。
クラブヘッドがインサイドから入ってくるほど、アッパー軌道でボールの打ち出しを高くできるが、ボールのコントロールは難しくなる。それでも飛んで曲がらないのが、マキロイが“現代ゴルフの申し子”と呼ばれる由縁であり、メジャー通算4勝という強さの理由でもある。
石井氏は続ける。「マキロイはスイングの切り返しで、ボールの左側にグッと踏み込んでいち早くシフトして、インサイドからアタックする。笹生さんの場合はそこまで左にシフトしないで切り返してくるから、マキロイほどインサイドが強くない」。
そんな笹生のスイングに、石井氏はマキロイではなく、メジャー通算15勝のタイガー・ウッズ(米国)の姿を重ねる。「72ホール目の18番のセカンドショットを見ていても、笹生さん本来の上半身が下に沈む動き、タイガーのような頭がボールにグッと近づいていく感じがありました。これはかなりフィジカルが強くないとできない動きです」。
この上半身が沈んで前傾角度が深くなる切り返しのメリットはどこにあるのか。「良い意味で体と地面との空間が少なくなるからなんですよ。体が起き上がって空間がたくさんあるとボールに届かないので、手先を使って早くリリースしたり、ハンドファーストに当てることができない。上半身がグッとボールに近づく動きがあると、思いっ切り体を回転していけるので、しっかりとボールにコンタクトできるんです」。
つまり、手先を使って当てにいくのではなく、ブレーキをかけずに体全体のターンで打てるので、方向性も飛距離も出るというわけだ。さらに、「プレッシャーがかかって大事な場面であればあるほど、笹生さんはグッと地面に近寄っていくと思う。大きな筋肉を使う作業ですから、手先の細かい筋肉で打つよりも、プレッシャーに強いスイングだと言えます」と石井氏は話す。
畑岡奈紗とのプレーオフが決着した3ホール目。笹生は残り109ヤードの左ラフから完璧なショットでピン手前2.5メートルにつけてバーディを奪った。また、最終日は序盤の連続ダブルボギーなどでスコアを落としたが、バックナインの勝負所で連続バーディを奪って首位に追いついている。そんな土壇場での勝負強さの裏には、ウッズと同じ“沈み込み”があった。
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