圧倒的な飛距離と切れ味鋭いアイアンショットを武器に、2013年に年間4勝を挙げて賞金女王のタイトルを獲得した森田理香子。さらなら活躍が期待されたが、その後は下降線をたどり、16年にはついにシード権を手放す。18年の「ニチレイレディス」を最後にツアーには出場していないが、一体何があったのだろうか。3回にわたり、森田の過去、現在、未来に迫る。今回はツアーを離れた現在と未来について。
18年限りでツアーから離れた森田理香子は、果たしてどのような生活を送っていたのだろうか。「しばらくの間は、ゴルフクラブを握ることはありませんでした。ゴルフをすること自体が嫌だったんです」。賞金女王のタイトルは獲得した後、ゴルフに対する窮屈さを感じていた。
若い時は失うものもなく、怖いもの知らずでプレーできたが、いざタイトルを獲得してみると、女王らしいゴルフをしなければいけないとか、不調を許されない雰囲気があったのだ。それがプレッシャーとなり、大好きだったゴルフを嫌いになるほど追い込まれていたのかもしれない。仕事でなくなった以上、あえてクラブを握ることはしたくなかった。
それでも森田の中でゴルフの火が完全に消えたわけではなかった。自分にはゴルフしかないという思いがあるからこそ、所属先やウエアなどのスポンサーとの契約更新は行わなかったが、クラブの契約先だけは残していたのだ。「プロアマ戦に出場したり、アマチュアの方にレッスンしたりする仕事はありますからね。ツアーから離れたとはいえ、自分はプロゴルファーとして生きていくしかないので、クラブ契約は残したんです」。やはり人生の大半を費やしてきたゴルフとそう簡単に縁を切ることができるはずもなかった。
ただ、疲れ果てた心と体を休める時間が森田には必要だったのかもしれない。ゴルフとの距離を少し置いたことで心も体もリラックスできたのは確かだ。同時に、自分の甘さや恵まれていたことも理解できた。
「ツアーから離れてしばらくは暇な時間があったんです。ボーッとしていること自体が新鮮で嬉しかったんですけど、そのうちダメな人間になると思い始めました。やっぱり忙しいのが幸せだったんだなと分かったんです」
心が落ち着いたことでクラブを握る機会も徐々に増える。「スコアを気にしないと、これほどまでにゴルフが楽しく感じるのかと思いました」。気持ちがフラットになっているから、人の意見もすんなりと入ってくる。例えば、以前はダウンスイングで左サイドの壁をつくらなければいけないと思い込んでいたが、それが必要ないと分かった途端、ドライバーの飛距離が15ヤードほど伸びたという。アイアンショットの精度も落ちていないため、今でもある程度のスコアを出すことはできる。とはいえ、今のところ、ツアーに復帰する気持ちはない。
ツアーから離れた後、テレビの解説を行ったり、取材を受けたりしながら、自分がやりたいことを探していた森田だが、徐々にそれが見えてきたという。「今年からゴルフウエアのプロデュースを始めたんです。デザインから販売まで全般に関わりたいですね。新型コロナの影響でゴルフを始める人も多いと聞きますし、そういう人たちにも着てもらえるようなウエアをつくりたいです」と、目を輝かせる。さらに、将来的にはジュニアゴルファーの育成やアマチュアを対象としたゴルフスクールも開校したい気持ちもある。森田自身の成功と失敗の実体験を伝えながらレッスンできるとしたら、既存のゴルフスクールとはひと味違ったものができるかもしれない。
ツアーから撤退して3年になるが、まだ31歳と若いため、何をやるにしても成功する可能性は十分ある。ただ、森田に焦りはない。「子どもがほしいし、プライベートを充実させたいので、それからですね」。まずは結婚して新しい家庭を築き上げることが先決のようだ。ツアーに復帰することは難しいかもしれないが、新たなゴルフ人生に向けてかつての賞金女王がようやく動き始めたことだけは間違いない。(文・山西英希)
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