<ダンロップ・スリクソン福島オープン 最終日◇27日◇グランディ那須白河GC(福島県)◇6961ヤード・パー72>
決めれば優勝のバーディパット。打つ前に大きく息をついた木下稜介を思い出すと、笑みがこぼれる。「緊張してないフリをするけど、出ちゃってましたね(笑)。かわいいヤツです」と、ポーカーフェイスの向こう側もお見通しの奥嶋誠昭コーチ。しかし、そんな関係性を築くまでに2年近くかかった。
「日本ゴルフツアー選手権」でツアー8年目にして初優勝を飾ったあと、2勝目はわずか3週間後にやってきた。初Vからの2連勝は日本人選手として史上初。この躍進の影には、おととしから木下を見始めた奥嶋コーチの存在が大きい。
奥嶋コーチといえば、女子では稲見萌寧を指導する名コーチ。今週はキャディとして帯同し、初優勝から気が緩むことなく進む木下を見て、2勝目も遠くないとは思っていた。「ショットの精度が本当に上がった。今日見ていても、まあピンにスジっていく。スコアはショットなんだと改めて思いました」と、最終日10バーディ・ノーボギーという圧巻のプレーを見届けた。
木下が知人の紹介で奥嶋コーチの門を叩いたのは、2019年のなかば。「最初のころは、あんまり信用していなかったと思います。調子がわるいとポッと連絡がきて、必要がなくなるとこない。そういうやつなんです」。当初はコロナ禍で対面での練習ができず、昨年も会えたのは5回ほど。本格的に始動できたのは今年からだった。
「米国(ツアー)に行ってから、飛距離はムリだからセカンド、アプローチの技術を磨かないと戦えないと言っていました」と、アイアンショットを強化、ショートゲームの練習量も増やしてきた。「ああいう感じだけど、“パターが巧い選手はピンパターを使っている”とか、意外と昔風なんですよ」。人柄やクセも理解しながら一緒に取り組んできた今年、成果はみるみる表れた。「一番変わったのはショットです。コントロールが効いて、ついでに飛距離も出るようになった。最初は不安しかなかったと思うけど、やったことが合っていたんだと、今やっと信用してくれたと思います」と振り返る。
はじめてキャディとして来てくれた奥嶋コーチに、「キャディ業は微妙でした」(木下)という軽口も信頼関係の証し。「でも、終わってからのコーチ業はすごく安心できた。奥嶋さんがキャディじゃなかったら、勝てていなかったと思います」と笑う。
「稜介、マスターズに連れてって」。「キャディはイヤだけど、コーチとしてならしょうがないな」。交わした約束も、そう遠くないうちに叶うかもしれない。この優勝で世界ランクも100位以内に入る見込み。2週間後には海外メジャー「全英オープン」も待っている。2人の歩みは、ここからがスタートだ。
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