PGAツアーの会場で、日が沈むまで黙々と練習を続ける数少ない選手のひとり。松山英樹の実力は、その集中力と努力から成るものだ。そうして日本のスター、そしてマスターズチャンピオンとして世界のトップに上り詰めた松山が、日の丸を背負って東京五輪に挑む。
母国の期待を一身に背負う29歳。これまで何度も世界中のメディアの取材に応えてきたが、知られていない一面はまだまだある。プライベートについては多くを語らず、2017年に結婚していたこと、そして第一子が生まれたことを発表したときは、多くのメディアやファンを驚かせた。「誰にも聞かれなかったので」と、少し寂しそうに応えた松山は、どこか謎めいていた。
しかし松山をよく知る人は、ユーモア、思いやり、謙虚さを持ち合わせた選手だと語る。「プレジデンツカップ」で松山と世界選抜チームとして戦ったマーク・リーシュマン(オーストラリア)は、「彼と話す時、面白いことを言うと楽しんで笑ってくれる。英語が少しわかっているし、僕の日本語よりも、はるかに彼の英語の方が優れているからね。プライベートはあまり明かさないけど、ユーモアのセンスがある」と少し意外な素顔を明かす。
印象的なエピソードもあった。「2019年の日本でのZOZOチャンピオンシップで、彼のお気に入りのレストランで夕食を取った。そのときに僕たちを笑わせようとして、面白いものを注文したんだ。僕が“何でも食べられるよ”と言うと、生の牛肉の上に生卵がのっているものを頼んだ。生の黄身だけのっていたのがなんだか面白くて、みんなで笑ったのを覚えている。そうやって、たまに突然ふざけたりするんだ」
同じくチームメイトだったキャメロン・スミス(オーストラリア)もうなずく。「ストイックで、ビジネスライクな面だけじゃない。とても面白い選手だよ。言葉の壁があっても、よく知り合えばすごくウィットに富んでいる。ゴルフ場でもイタズラするし、みんなが思っているよりも、もっと愉快な性格だと思う」と語る。
プレジデンツカップで松山とコンビを組んだC・T・パン(台湾)は、松山の“ムードメーカー”的な一面に助けられた。「もちろん真面目だったけど、一緒に戦ったマッチでは雰囲気を明るくしようとしてくれていた。ベテランだから、戦いの場でどういう雰囲気を作ったらいいのか分かってるんだと思う。たしかにストイックだけど、彼は面白いよ」。
ツアー7勝のウェブ・シンプソンとも、こんなエピソードがある。シンプソンが日本の大会に出場するため来日した際、松山はレストランを貸し切りもてなした。
「よく寿司を食べに行くんだ。ダンロップフェニックスでプレーしたとき、ヒデキが夕食に招待してくれて、とても楽しい時間だった」と笑う。そんな松山の人柄に加えて、日本のスタートして注目される中、その対応にも称賛を贈る。
「彼の振る舞いは素晴らしい。家族は日本にいるし、色々なプレッシャーがある中でとてもうまく対応していると思う。日本のビッグスターとして注目されているが、とても謙虚だ」と語った。
そして、東京五輪を舞台に“日本のビッグスター”としての周囲からの期待は最高潮に達している。日本代表コーチの丸山茂樹も、もちろん期待をかけるひとり。「重荷に感じさせるつもりはありませんが、誰もが期待をする選手としてとても成長した。みんなが彼の功績を誇りに思っていますし、期待も益々高まるでしょう。僕たちに大きな夢を与えてくれた。将来、英樹のようになりたいと思っているジュニアは確実に増えるでしょう」と語る。
子どもたち、そして日本中のファンの期待は、松山自身がしっかりと感じている。「金メダルを狙いたい」と、29日(木)からの4日間を見据える。
「ベベストを尽くします。これから10年、15年は現役でプレーしていく中で、子どもたちやジュニアの手本になれるよう頑張りたい」。
マスターズでグリーンジャケットに袖を通してから、次はその胸に金メダルが輝く姿を、日本中が待ち望んでいる。
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