本来の韓国開催ではなく米国ネバダ州ラスベガスで開催されたCJカップは、リッキー・ファウラーの復活優勝なるかと注目が集まっていたが、勝利したのは北アイルランド出身の32歳、ローリー・マキロイだった。
今大会でシーズン初戦を迎えたマキロイは、今季初優勝、今年2勝目、そして米ツアー通算20勝目をマークし、ライフタイム・メンバー(生涯シード)の資格を手に入れた。
2010年から米ツアー参戦を開始したマキロイが「ツアー15年」の条件を満たして実際のライフタイム・メンバー(生涯シード)になるまでには、あと2年(2023年シーズン終了後)待たなくてはならないが、「大きな収穫、ビッグな達成だ。34、35歳になってから、余裕を持ってツアーに出られることが何よりうれしい」。
余裕が持てることを喜んだ彼の言葉は、これまで米ツアーと欧州ツアー、ときには世界を駆け巡る広範囲の移動や過密スケジュールの中で、物理的にも時間的にも肉体的にも、いかに切羽詰まった状況だったかを物語るものだった。だが、彼が何より苦しんできたのは、精神的にギリギリの状態だったことではないだろうか。
マキロイは米ツアー選手になってからも常に北アイルランドと英国、両方のパスポートを持ち続けてきた。米国人の妻エリカさんと結婚し、娘のポピー・ケネディちゃんが誕生してからも自身のアイデンティティを探す旅は続いていたのだろう。
そんな中で味わった先月のライダーカップの「19対9」という歴史的大敗は、彼にとって受け入れがたいものだった。悔し涙をボロボロこぼしながら、なんとかインタビューに応えたあのときのマキロイは「この敗北を僕にとって最高の経験にしなければならない。少年少女たちが、みんな見ているのだから。たとえ何があっても、僕は僕自身とチームに胸を張る」と必死に言葉を絞り出していた。
それから数週間。まるで哲学者のように自問自答を繰り返したマキロイは、ようやく1つの答えを見つけたという。
「やっと自分を定義することができた。僕はゴルファーであり、僕は僕だ。そして、僕は僕のゴルフをする。それで十分だ」
今大会は、そうやって悟りの境地に至って挑んだ自身のシーズン・キックオフ戦。マキロイは10アンダー、62をマークした3日目に一気に単独2位へ浮上し、首位から2打差で迎えた最終日は前半に3つ伸ばし、後半は12番でバーディ、14番では見事なチップイン・イーグルを披露。
終盤は、すでにホールアウトしていたコリン・モリカワとの1打差を死守することに努めた。72ホール目の18番(パー5)もドライバーを握らず、確実にパーを獲る「守りの攻め」を貫き、大会記録となるトータル25アンダーで勝利。
「いいゴルフをすることだけに集中した。僕の今週のハイライトは、昨日の10アンダー。今日は安定したプレーができて、僕は僕のゴルフで勝つことができた」
厳しい競争社会だからこそ、周囲や他選手との比較ではなく、「僕は僕」。その意識こそが、サバイバルのための最善の道だと悟ったマキロイだからこそ、ライフタイム・メンバーになる20勝目を挙げることができたのだと私は思う。
最終日を10アンダーで回り、トータル24アンダーで単独2位になったモリカワは、得意のアイアンショットが冴え渡っていた。ファウラーの復活優勝はならなかったが、長い不調から抜け出しつつあることは、日本のゴルフファンにとっても朗報だ。「長旅だけど、いい感触を持って日本へ行ける」と語ったファウラー自身、とてもうれしそうだった。
明るい表情をたたえながらZOZOチャンピオンシップへやって来る彼らは「彼らの素晴らしいゴルフ」を習志野で日本のファンに見せてくれるのではないだろうか。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
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