原英莉花、西郷真央、笹生優花を指導し、トッププレーヤーに育てあげたジャンボこと尾崎将司。プロ通算113勝を誇る日本ゴルフ界のレジェンドが選手として超一流だったことはいまさら言うことでもないが、現在は指導者としても高い手腕を発揮している。先週12日には今後アカデミーで指導する選手を選ぶセレクションが公開されたが、その会場で若手育成の“哲学”に触れることができた。
千葉市内にある通称“ジャンボ邸”でプロを目指すため、4日間行われた選考会に参加したのは中学3年生から高校2年生までの男女ゴルファー28名。その内容は実にシンプルで、実際に打席でショットを打たせ、そのスイングや球筋を見たほか、ウェッジの精度や、素振りをさせて振る力を見極める、といったものだった。
参加者1人当たりのアピール時間は、10分あるかないか、といったところ。ジャンボはこの短時間の間に何を見るのか? ゴルフをするうえでの基礎的な運動能力は当然ながら、最も「大事なこと」として以下のことを挙げる。
「1つのことを着実に努力して進めていくこと。こればかりは性格の問題だから、ここ(選考会)だけでは分からないけど、それを願いながら(見ている)」
そして次々と、ジャンボの育成への考えが語られる。「一方的に教えていく、ではダメ。言ったことを理解して、“こうしないといけない”と考えられないと。それができる人は課題を探すことができる。もちろん課題を指摘もするけど、着実に努力してやってもらいたいね」。そこに一貫していたのは、何を教えるかではなく、どう教わるかということ。選手自身が「一生懸命に」ならないことには、何も始まらない。
これほどの実績を誇る人物が教え、その教え子たちが結果を出すと、どうしても『どんな優れた指導をしているのか?』と考えたくもなる。しかし、当のジャンボは、あくまでも「若い子の成長は本人次第」ということを考え方の基本に置く。昨年11月、「大王製紙エリエールレディス」を制した原が、ジャンボからの『振り切れていない』というアドバイスを意識して優勝につながったと話していたように、“見るポイント”が的確なのは事実だろう。ただ原は、ツアー会場で遅くまで黙々と練習する選手の一人でもある。
ジャンボは、今のジュニア世代の“傾向”について笑いながら、こう話す。「目標はすごいことを書くんだよ。メジャーで勝ちたいとか。願望や夢、これだけではダメなんだ」。渋野日向子が全英に勝ち、昨年は松山英樹がマスターズ、笹生が全米制覇を成し遂げた。今、日本ゴルフ界と世界との距離は一昔前に比べ、格段に縮まっているように思える。ただ、その言葉は、一足飛びにそこに到達できるわけではないという警鐘のようにも聞こえる。
例えば基礎練習の重要性を語る時も、一言添えられた。「今の子供は素振りが足らない。すぐにうまくなりたいから球を打って、結果を出したいんだろうな。素振りをしっかりしたほうが、体に力がつく。そういうことも教えていきたい」。こういう言葉を聞くと、なおさらジャンボ邸で“魔法の理論”が伝授されているわけでないことが分かる。そしてこう続ける。
「今は親の期待も大きいんだ。特に女子の世界は。そういった意味では、親が一番最初に教えることに責任が出てくる。早くうまくなって欲しいと思って、小さい子供に父親のクラブを振らせたりしたら、スイングも崩れる」
では、プロで活躍できる選手に、何か“共通点”はあるのだろうか? ジャンボにそれを問うと、じっくりと考えたあと、こう口を開いた。「うまくなろうとしている人間は向上心が非常に強い。目標をはっきりと自分で持つことができる」。ただし、これにも注意点がつく。
「最終目標が大きければいいってもんでもない。大きすぎて途中でこける奴が多いからな。目標は自分がクリアできるものから設定しないと。それを超えたら次の山に挑戦。富士山に登るのは一番最後なんだ。これくらいの山なら登れる。それができたら、次はもう少し高いところ。最後に一番高い山にたどり着くことが必要。最近はみんな最初に富士山に行きたがる。メジャーを獲りたいって。へへへ。今のお前に何ができるんだ」
表現こそ違えど、語られる“考え方”は常に一貫している。原、西郷らに今季期待することを聞いた時の答えも、「どうやったら自分が戦っていけるのかを分かっている。トレーニングしないといけないし、それなりの練習もしないといけない。上に行く人間はそういうことができる。用意ができなければ始まらん。気持ちだけあってもだめ」というもの。近道など決してない。
原の豪快なドライバーショットに、西郷の正確なアイアンショット。表面的に華やかに見えるプレーの裏には、こうしてジャンボの下、歯を食いしばる日常がある。「練習が嫌いなやつは、好きじゃないんだ。一生懸命がなんであるかを若い子は知らないといけない。一生懸命努力して、一生懸命練習して、一生懸命やることがどういうことかを覚えてもらいたい」。それこそがジャンボ邸で得られる大きな財産なのだと、この取材で感じた。(文・間宮輝憲)
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