プロゴルファーの原点ともいえるのが高校時代。多くの有望選手を輩出する名門高校のゴルフ部監督は、その原点を知っている。有名プロとなった今では語られない、知られざるエピソードも数多い。高校ゴルフ部監督の回顧録をお届け。今回は、宮里藍や有村智恵ら女子を中心に多くのプロを輩出。全国大会女子の部で2003年から前人未到の5連覇を遂げた名門・東北高校(宮城県)を2000年から10年間率いた川崎菊人氏に聞いた。(取材・文/山西英希)
■入学当時はのんびりした雰囲気が主将になって一変した
どんな世界でもトップの位置を維持し続けることは相当な難しさがあるが、全国大会を制覇した東北高校ゴルフ部も例外ではない。東北高ゴルフ部出身の女子プロは単にプロテストに合格しただけでなく、シード権を獲得し、ツアー優勝を飾っている選手が多い。それだけに、監督を務めていた川崎菊人氏(現・東北福祉大女子ゴルフ部コーチ)にしてみれば、印象に残る卒業生は少なくないが、高校時代に大きく成長し、全国大会4連覇がかかっていた大会で3年生の菊地絵理香は信じられないパフォーマンスを見せたという。
菊地は2008年に単年登録をしてプロデビューを果たす。初シードを獲得したのは12年。ツアー通算4勝を挙げ、現在もシード選手として活躍している。昨年は国内女子ツアー史上最高優勝賞金額(5400万円)の「アース・モンダミンカップ」で優勝。1週間で5400万円と、ある意味、抜群の勝負強さだった。
東北高校入学時の菊地には、そういう雰囲気はなかったという。「言い方は悪いかもしれませんが、1年生のときはボーッとしていたところがありましたね(笑)。こちらが何かいっても反応が薄いといいますか、覇気がない感じでした」。当時、有村智恵、原江里菜らを擁した東北高校で1年からレギュラーだったことを考えれば、実力的にはトップクラス。しかし、どこかのんびりとした雰囲気だったという。
そんな菊地だが、3年で主将に任命されると、見違えるようなキャプテンシーを発揮する。「1年生の時と比べてかなり明るくなりましたが、その一方で相当なプレッシャーがあったのも事実です」と川崎氏。
■「バーディなら優勝、パーなら敗戦」の状況で4連覇を遂げた
宮里藍、有村智恵、原江里菜らの活躍もあり、同校は全国大会で3連覇を飾っていた。菊地が3年のときには堀越高校(東京都)、東海大第二高校(熊本県)に並ぶ大会4連覇の記録がかかっていただけに、負けられないという気持ちが常につきまとっていた。そんな菊地の思いを持ち遊ぶかのように、3年での全国大会ではまれに見る激戦が繰り広げられた。
初日、東北高は首位に立つが、2位の東海第二高とはわずかに1打差。最終日の前半を終えると、逆に東海第二高が2打リードする展開に。その後も激しい争いが繰り広げられ、最終組の最終ホールでのスコア次第で優勝が決まる状況だった。
東北高の最終組で回ったのは菊地で17番ホールまでパープレーで回っていた。最終18番パー5では2打目をグリーン手前の30ヤード付近まで持ってくる。そこから約1メートルにつけてバーディパットを残す。真っすぐなラインだが、外せば1打差で2位に終わる。入れれば上位3人が同スコアになるため、4人目のスコアを入れた合計で決まるが、それは東北高が上回っていた。したがって、バーディなら優勝、パーなら2位という状況だ。
手が震えるほどのプレッシャーを感じる中、菊地はしっかりとカップにねじ込み、東北高の4連覇が決定した。この頃から勝負どころの見極める力を磨いたようだ。
■菊地絵理香
きくち・えりか/1988年7月12日生まれ、北海道出身。6歳でゴルフクラブを握るが、本格的に始めたのは14歳の頃。中学3年時に日本女子アマでベスト4に進出し、全国にその名が知れ渡った。「強い人とゴルフがしたい」として1学年上にいた有村智恵、原江里菜らがいた東北高校に進学。高校3年時には夏の全国大会で個人と団体の2冠を達成。2度目となった2008年のプロテストに合格。12年から9シーズン続けてシード権を保持。昨季は賞金ランキング9位。ツアー通算4勝。
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