50歳以上のレジェンドが集まる国内シニアツアー。昨年の賞金王で“シニアの顔”である篠崎紀夫は、独特のゴルフ観や練習法で強さを発揮する。ツアーで結果を残せるようになったのは、3Mを心掛けることという。そのMのヒミツを聞いた。(取材/文・山西英希)
■伊澤利光の「ピンを狙うのは9番アイアン」で考え方が変わる
本格的にゴルフを初めてからわずか4年でプロテストに合格した篠崎紀夫だが、レギュラーツアーで初優勝を遂げるまでに16年を要した。ツアーの前半戦の出場権を獲得した96年は15試合に出場して予選通過はわずか1回。2000年も17試合に出場したが、予選通過は5回。「久光製薬KBCオーガスタ」の34位タイが最高成績だった。予選を上位で通過しても4日間終わってみれば下位に沈む試合が続いた。
その理由は無理な攻め方にあった。「トーナメントに出場すると、ピンの位置に関係なくバーディばかり狙っていました。当然、グリーンを外せば難しいアプローチが残るのでボギーを叩く確率も高くなって、4日間好スコアを並べることができませんでした」と振り返る。ピンが真ん中にある練習ラウンドではアンダーパーで回りながら、試合になるとオーバーパーを叩いていた原因もまさしくそこにあった。
「自分が無理をしていたと気づいたのは、伊澤利光さんとの会話がきっかけでした。『何番アイアンからピンを狙う?』と聞かれ、『5番アイアンです』と答えたら、『エーッ!?』となったんです。伊澤さんはピンを狙うのは9番アイアンより下というんですよ。ピンの位置によってはサンドウェッジでも狙わないよと」。
賞金王を2度獲得するなど、日本を代表するプレイヤーの伊澤に対して、4番アイアンでもピンそば2メートルにつけるという認識があった篠崎にしてみればかなりの衝撃だった。その会話をきっかけにその後のコースマネジメントが大きく変わったことはいうまでもない。
■常に同じリズムで振る“ムラ”を無くすのが最近のM
試合では自分が確実にできることだけを実践するように心がけた。「自分ができないことをやろうとするのが一番のムダなんです。練習で10回中1回しかできないことを試合でやっても成功しませんからね」。成功する確率が低いのに、あえてチャレンジしたことでスコアを悪くした場合、今度はそれを取り返そうとして無理をする。しかし、自分ができる範囲の攻め方をした上でのボギーならその後のプレーに大きく影響することはない。
“無理をしない”、“ムダをなくす”という2つのMを肝に銘じると徐々に結果が出るようになり、05年には13試合中9試合で予選通過と安定感が出てきて、プロ71試合目となった07年の「ANAオープン」優勝にもつながった。現在、篠崎は3つ目の“M”も心がけている。
「ムラをなくすことです。緊張する場面ではスイングリズムが速くなったり、遅くなったりすることがあります。そのようなムラが出ないように、どんなショットでも常に同じリズムでクラブを振れるようにしたいですね」と、スイングのムラがミスショットにつながるという。
もちろん、ここ一番という勝負どころでは無理をすることもあるが、通常運転のゴルフを最後まで貫き通したことが賞金王のタイトルを引き寄せたことは間違いない。
■篠崎紀夫
しのざき・のりお/1969年10月24日生まれ、千葉県出身。身長162センチ、体重67キロ。92年プロ転向。プロ16年目の2007年「ANAオープン」でツアー初優勝。賞金シードは4シーズン手にしたが13年が最後。19年にシニア入りし、2年目の20年「マルハンカップ太平洋クラブシニア」でシニア初優勝を遂げるなど賞金ランキング2位に入る。21年は年間3勝を挙げてシニア賞金王となった。レギュラーツアー通算1勝、シニアツアー通算4勝。北谷津ゴルフガーデン所属。
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