<ヤマハレディースオープン葛城 初日◇31日◇葛城ゴルフ倶楽部 山名コース(静岡県)◇6590ヤード・パー72>
誰もが「難しい」と吐息とともに漏らす名匠・井上誠一が手がけた葛城ゴルフ倶楽部で行われている「ヤマハレディースオープン葛城」。初日は好天だったが、旗竿をしならせるほどの強い風が選手たちを苦しめた。
3位タイグループのなかに、広場恐怖症で飛行機や船での移動ができずにツアーを転戦している菅沼菜々がいた。広場恐怖症とは不安が生じたときに逃げる方法がなく、助けが得られない状況や場所にいることに対して恐怖を感じること。パニック発作を伴うことが多いとされている。
「ツアーではドーピング検査があるので薬も飲んでいません。飛行機にも船にも乗ることができないので、北海道と沖縄で行われる試合は休んでいます。移動はクルマです」
高校に通うころからこの病気に悩まされてきたという。トーナメントは日本全国で開催されるだけに、ツアープロにとって移動は仕事のひとつ。前週大会の宮崎県宮崎市から今大会の静岡県袋井市まで、クルマでの移動はおよそ900キロ、ノンストップでも13時間ほどの旅程になる。「途中、広島で泊まって月曜日に現地に入りました。運転は父に任せて、ずっとクルマの助手席に乗っているので、体が固まらないように1時間に1回ほどパーキングエリアに入って体を動かしてます」と、笑顔で話す。
移動時間が長いということは、それだけ体を休めたり練習に費やす時間が減るということ。ハンディを背負ってのツアー参戦であるが、「移動時間が長いときは質より量で。移動時間が短いときはみっちり長めに練習しています」と話し、ストレスの解消は?と問いかけると「全国のサービスエリアには詳しくなりました。愛知県の岡崎SAとか、けっこう好きです」と前向きな答えを返してくれた。
筆者は生まれついての無骨者ゆえパニック障害とは無縁に生きており、その辛さのほどは実感することはできない。だが菅沼がこの病と付き合いながら、前向きなメンタルを育ててきたのだということは分かる。そしてそれがゴルフにもいい影響をもたらしているのではないかということも。
「きょうはラッキーでした。このコースは絶対に打ってはいけないところがあるので、安全なほうに外れてくれるのはラッキー。ラッキーが続くといいです。パーオン率が悪いので、外すなら手前手前で、とりあえず奥にはつけない」という作戦だったと話したことからも、前向きさがうかがえる。
初日はボギーなしのプレーで、まさにストレスフリー。首位を狙える好位置でスタートする2日目は「初優勝は気にせずやります」と満面の笑顔で話していた。初のシード選手として挑んでいる今シーズン。菅沼の大きな活躍に期待したい。(文・河合昌浩)
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