「マスターズ」の翌週、PGAツアーの戦いの場は隣接するサウス・カロライナ州へ移され、由緒あるハーバー・タウン・ゴルフリンクスで「RBCヘリテージ」が開催された。
最終日の優勝争いは大混戦となったが、パトリック・キャントレー(米国)とのサドンデス・プレーオフを制して勝利したのは、メジャー3勝を含む米ツアー通算13勝目を挙げたジョーダン・スピース(米国)だった。
その戦績はツアーの中でも燦然(さんぜん)と輝いている。だが、その一方で「パットが弱点」と言われ続けている彼が、今大会でも3パットを繰り返し、それでもチャンピオンになった勝ち方には学ぶべきことが多々あったように思う。
プレーオフ1ホール目の18番は、どちらも2打目がグリーン手前のバンカーにつかまった。スピースはアゴには近かったものの、ライそのものは悪くなかった一方で、キャントレーはひどい目玉になっていた。
スピースはあとわずかでチップインという見事なバンカーショットでパーを拾った。だが、出すのが精いっぱいとなったキャントレーの3打目はグリーン上で止まらなかった。10メートルのパーパットを沈められず、万事が休した。
2人の勝敗を分けた直接的な要因は、バンカー内のライの違いであり、それは「運だった」と言えるのかもしれない。しかし、最後には運さえ味方に付けて勝利したスピースの歩みは、どんな状況からも勝てるよう、どんな状況に遭遇しても勝てるよう、しっかり対策を練って練習を積んできたことの結実だった。
2013年の「ジョン・ディア・クラシック」を皮切りに次々に勝利を重ねてきたスピースは、2017年「全英オープン」を制覇して以来、優勝の二文字から遠ざかり、スランプに陥った。
昨年の「バレロ・テキサス・オープン」で4年ぶりの復活優勝を遂げたものの、かつてのように好調を維持することができず、その原因は「パットが不得意なせいだ」と彼自身、最初は思っていたそうだ。
だが、やがてスピースは考えを変えた。不得意なものを得意に変えるより、得意なものをもっと得意にして武器にするほうが得策なのではないか、と。そして彼はスイングをチューンナップして、ショットと小技に磨きをかけ、「ティ・トゥ・グリーン(グリーン到達までの全ショット)では誰にも負けないゴルフを目指した」。
今週も依然としてパットは悪く、初日の14番でも3日目の18番でも3パットした。優勝争いの真っ只中だった最終日でさえ、9番と11番で短いパットを外し、ボギーを喫した。
だが、彼はパットの弱点をショットと小技で補い、とりわけバンカーショットは大いなる武器となった。2日目の12番ではバンカーからチップイン・バーディ、最終日も2番ではバンカーからチップイン・イーグル。
「(9番と11番で)ボギーが続いたけど、13番のバーディでショットに落ち着きが戻り、18番のバーディで優勝のチャンスを手に入れた。プレーオフを戦えたこと、いいライが得られたことはラッキーだった。僕は、この試合にパターなしで勝ったようなものだ」
たとえ弱点があろうとも、それを補うことができ、運も味方してくれたら勝てる。パーフェクトではなくても勝てる。そんな彼なりの方程式をスピースは事前に考え、実践し、見事に勝利を手に入れた。
さらに言えば、スピースは「運」を引き寄せただけではなく、「落胆」も糧にして前進していた。
先週は「一番好きなトーナメントであるマスターズで初めて予選落ちした」と肩を落としたが、だからこそ翌週は頑張ろうと心に誓った。だが、今週も3パットの連続で何度も落胆。「パットが入らない、詰めが甘いという批判の声が何度も聞こえてきた気がした」そうだが、それでもスピースは諦めなかった。
プレーオフ1ホール目でバンカーにつかまったときも、一度は落胆したという。
「でも、パトリックもバンカーにつかまり、僕のほうがむしろ(ライは)イージーだとわかったとき、やっぱりゴルフは最後まで何が起こるかわからないものだと思い直した」
スピースの今週のSGP(ストローク・ゲインド・パッティング)は「-2.55」。優勝者のSGPとしては2010年以来、最悪の数字だが、「それでも勝てる」ことをスピースが実証してくれた。
弱点があっても勝てる。何度、落胆しても勝てる。スピースが教えてくれたことは、私たちアベレージ・ゴルファーにとって、大きな励みになる。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
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