<ISPS HANDA 欧州・日本、とりあえず今年は日本トーナメント! 最終日◇24日◇PGM石岡ゴルフクラブ(茨城県)◇7071ヤード・パー71>
自身初の最終日最終組でスタートした桂川有人。今季2位2回の勢いそのままに、前半はポンポンと6つのバーディを積み重ねて、2位に2打差をつけてトーナメントをリードしていた。
ところが後半に入りスコアが停滞。16番のボギーで前の組を回っていた星野陸也に並ばれたが、17番パー3のバーディで1つ抜け出し、なんとか逃げ切ってツアー初優勝をつかんだ。緊張の上がりの3ホールを、桂川とキャディの三谷拓斗氏はいかに乗り切ったのか。話を聞いた。
16番は2オン可能なパー5。ティイングエリアのリーダーボードでは、トータル24アンダーで桂川がトップ、2打差の2位に星野の名前があった。ドライバーのティショットをフェアウェイに運び、セカンドでは惜しくも2オンできなかったが、エッジまで1ヤード、ピンまで9ヤードの3打目を1メートルに寄せて、後半初めてのバーディは確実かと思われた。
ところが桂川が打った短いバーディパットは、カップにかすりもせずに左を通過。返しのパーパットもカップのフチをなめて入らず。なんと1メートルから3パットのボギーとしてしまった。
このとき、三谷キャディは「3打目までは完璧で、バーディパットは『ジャストタッチで打ちます』というので、『ボール一個左に外して打とうね』と話していました。そうしたら、パンチが入って左に外れたんです」と状況を説明する。桂川自身は「下りでなかなか強めには打てなかったので、やさしく打とうと思ったんですけど、緊張で手が止まるのを怖がって、逆に強く入っちゃってビューッと抜けちゃった」と語る。メンタル的には「辛かったです。うわーって」とダメージを受けた。
このボギーで星野に追いつかれることになったが、まさかの3パットを打った後も、桂川と三谷キャディはポジティブかつ冷静だった。「きょうはショットが良かったので、17番か18番で1つ獲れればいいかなと思っていました」と三谷キャディが言えば、桂川も「意外と何も考えることはなく、集中できていた気がします」という。
同組の大西魁斗とジャスティン・デロスサントス(フィリピン)が16番でともにバーディを獲っていたため、桂川の打順は最後だった。きょうの17番のピン位置は左で実測は155ヤード。はじめは9番アイアンを握っていた桂川だが、大西のティショットがグリーン手前のラフに外れたのを見て、「風が変わったのかもしれない」と感じた。
予想はしていた。「三谷さんと『きょうはどこかで風が変わるかもしれない』という話はしていたんです」。桂川は「左からの風」から「左からのアゲインスト」に変わったと判断し、9番アイアンを8番アイアンに持ち替えた。持ち球のフェードでピンにかぶって飛んでいったボールは、ピン手前1.5メートルのバーディチャンスについた。桂川はきょう一番のショットを「17番パー3のティショット」と話し、事実これがウィニングショットになった。
1.5メートルの上りのパットをしっかりと決め、18番のティイングエリアのリーダーボードでは、星野がトータル23アンダーでホールアウト、トータル24アンダー・単独トップに桂川の名前があった。最後の18番パー4について、一番近くで見ていた三谷キャディはこう振り返る。
「左のバンカーとか木にかすったりするのが嫌だったので、ティショットは右サイドに真っすぐ打ちました」。周りで見ていた人は、フェードヒッターである桂川のボールが右に飛び出していくのを見て少しヒヤッとしたかもしれないが、実は計算通り。ボールはフェアウェイの右サイドギリギリをとらえた。
きょうの18番のピンポジションは右の奥めで、ピンの左側が広かった。「セカンドはツマ先上がりだったので、グリーンの右サイドに外したり、奥に突っ込むのが嫌だった。ちょっと左サイドなら上りが打てるので良いよ、と。それで左サイドに打ちました」と三谷キャディ。桂川はまたも言われたとおりのボールでピンの左手前7メートルに乗せる。
「パットは上手く読めたと思ったんですけど、最後はストレートに抜けちゃった」。入れれば優勝のバーディパットは左からカップをのぞくも入らず。ボール半個右ならカップインしていたという完璧なタッチで、3パットの危険もない。
最後のパットをカップに沈めると、桂川は小さく両手でガッツポーズ。そのあと2回大きくガッツポーズしたあと、少し照れながら、「そのときの雰囲気でやろうと思っていた」と、プロレスラー内藤哲也の決めポーズ(右手で胸を2回叩いてコブシを点に突き上げる)を披露した。「ギャラリーの方が喜んでくれたので良かったと思います」とはにかんだ。
ティショットでは飛ばすときと、低く抑えて置きにいくときでドライバーのスイングを使い分ける。そしてピンを刺すアイアンで多くのバーディチャンスを作った。日本大学の4つ上の先輩でもある三谷キャディは、「すごいショットメーカー。言ったとおりの距離にきっちり打ってくるし、ゴルフ全般が上手いです」と舌を巻く。
ともに初優勝となった桂川と三谷キャディ。最後はしっかり2人で抱き合って喜びを分かち合った。直後の男子ツアー恒例のウォーターシャワーでは、なぜか桂川よりも三谷キャディのほうがたくさんの水をかけられてびしょびしょに。まさかの3パットボギーのあとの冷静な判断が、この勝利を引き寄せた。(文・下村耕平)
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