プロゴルファーの原点ともいえるのが高校時代。多くの有望選手を輩出する名門高校のゴルフ部監督は、その原点を知っている。有名プロとなった今では語られない、知られざるエピソードも数多い。高校ゴルフ部監督の回顧録をお届け。今回は夏の全国大会・団体戦男子の部で3度の優勝、女子の部で5度の優勝を誇る埼玉栄高校(埼玉県)を1980年4月から2020年3月まで率いた橋本賢一氏。現在は同校ゴルフ部名誉監督であり、関東高等学校・中学校ゴルフ連盟理事長を務める。橋本氏はメンタル面の強化をモットーにしていたこともあり、今でも卒業してプロになった選手から相談を受けるという。(取材・文/山西英希)
■「真剣に構えて打つと寄らない」と遊び感覚でゴルフを覚えた
創部45年を迎えた名門・埼玉栄高校ゴルフ部。男女問わず多くのプロゴルファーを輩出しているが、出世頭は先週の国内男子ツアーの「アジアパシフィックオープンゴルフ ダイヤモンドカップ」でツアー通算6勝目を挙げ、2018、19年にツアー史上5人目の2年連続で賞金王に輝いた今平周吾だろう。米国のIMGアカデミーで腕を磨いたことで知られるが、渡米前は埼玉栄高校に在籍し、日本ジュニアを制した経験もある。
今でこそインタビューなどではよく話すようになったが、高校時代は寡黙だったと橋本氏は振り返る。「物静かで多くは話さないという印象でしたね。ただ、練習ラウンドではリラックスしているというか、遊び半分で回っているように見えるんですよ。思わず『お前遊んでいるみたいだな』と声を掛けたこともあります」。
例えば、アプローチをするときでも、ほかの生徒からは「寄せるぞ」という真剣さが伝わってくるが、今平からは一切伝わってこない。適当に打っているようにしか見えないのだが、ボールはカップのそばに止まるという。
「理由を聞いてみると、『小さい頃から遊び感覚でゴルフをやっていたので、真剣に構えて打つと寄らないんです』って答えるんですよ」と、予想外の答えが返ってきた。実際、試合ではキュキュッとスピンをかけて止めるアプローチを平気で打っていたそうだ。グリーン周りは60度のウェッジ1本でこなし、ショートゲームの名手として知られる今平の原点は“遊び感覚”にあるようだ。
■安定した強さのヒミツは徹底したコースマネジメント
今平には驚かされることが多かった橋本氏だが、とりわけコースマネジメントは天才的だったと評する。「とにかく徹底していましたね。試合でドライバーショットが少しでも曲がってラフに入ると、もう次のホールからはドライバーを使わないんです。3番ウッドやアイアンでフェアウェイキープに徹していました」。高校生ぐらいの年代ならイケイケな選手が多い中、飛距離よりも方向性を重視して危機管理能力が高かった。
さらに、パー5のホールではほとんど第2打を刻んでいたとのこと。「今平が高1で出場した日本ジュニア最終日の話です。松山英樹君と高田聖斗君と最終組でラウンドしていたのですが、彼らはパー5の2打目をグリーン近くまで運ぶのに対して、今平は3打目を7番アイアンぐらいで打つんです。ほかの2人は3打目をウェッジで打つため、ピンそばに落ちてもバックスピンがかかって3メートルぐらい戻るんですよ。結局、今平の方が近くにつけていましたが、バックスピンがかからないことを計算して7番アイアンで打てる距離を残していたんでしょうね。本当に高1かと思いましたよ」。結局、3日間でトータル12アンダーと伸ばし、2位に4打差をつけて優勝している。
賞金王は年間通して安定した強さの証。トップ10入りの回数も多く、高値安定の強さのヒミツは、ジュニア時代から徹底したマネジメントがつながっているのだろう。ただ、そんな今平が、パー5で一度だけ2オンを狙ったことがある。同じ年に開催された全国大会の団体戦でのことだ。橋本氏から「最終ホールは全員2オンを狙ってバーディを取ってこい」と指示を受け、その指示通りに2オンに成功。2パットでバーディを奪い、団体戦優勝に貢献している。
ちなみに、普段感情をあまり外に出さない今平だが、寝坊して大会に遅れそうになり、橋本氏からカミナリを落とされたときは、さすがに顔が真っ青になっていたそうだ。
■今平周吾
いまひら・しゅうご/1992年10月2日生まれ、埼玉県出身。身長165センチ、体重67キロ。中学時代は2006年、07年に関東ジュニア連覇。高校1年時の日本ジュニアでは1学年上の松山英樹と最終組対決を制して優勝をしている。翌年、米国・フロリダ州のIMGアカデミーにゴルフ留学。全米ジュニアでベスト8に入った経験もある。帰国後、11年にプロ転向。14年にはチャレンジツアー(現・ABEMAツアー)で賞金王となり、15年からレギュラーツアーに参戦して初シードを獲得。2018、19年には史上5人目となる2年連続賞金王を獲得。今季は「アジアパシフィックオープンゴルフ ダイヤモンドカップ」でツアー通算6勝目を挙げている。
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