<フジサンケイクラシック 最終日◇4日◇富士桜カントリー倶楽部(山梨県)◇7541ヤード・パー71>
大西魁斗の優勝には伏線があった。コーチを務める内藤雄士氏はいう。「きのう、『あしたは攻めます』と言っていたんです」。
トップを3打差で追う最終日。大西は2回の3連続を含む6つのバーディを奪い、トップを走るパク・サンヒョン(韓国)をついにとらえた。最後はサンヒョンとのプレーオフをバーディで締めて劇的決着。ウィニングパットが決まった瞬間、「カモン!」と大きく吠えながら、全身ガッツポーズが飛び出した。
大西は、「英語を身につけさせたい」という両親の希望で9歳のときに米国に渡り、中学高校では親からも離れて、IMGアカデミーで腕を磨いた。そして、南カリフォルニア大学を卒業するまで米国で過ごしている。内藤コーチはいう。「2週間前のセガサミーカップは、小学生の頃から習ってきた丸山茂樹プロの関わっている試合で、彼が初めて日本のツアーに出た試合。あのあたりから「勝ちたい、勝ちたい」と言っていて、セガサミーと先週のKBCオーガスタでは空回りした」。
2週間前の「セガサミーカップ」はトップと3打差の3位タイでスタートしながら、最終日に「76」を叩いて、22位タイに終わった。先週の「KBCオーガスタ」では、12位タイで最終日を迎えて21位タイと順位を落としている。
大西のなかにも反省はあった。「先週もその前の週もけっこういい位置で最終日を迎えながらあまり生かせなかった。それに正直先週はあまり攻め切れなかった。今週はとにかく何があっても攻めることを心がけていた。自分はドライバーが去年も今年も一番のクラブ。シチュエーションによって変えていくのは自分らしくないと思ったので、今週はそのドライバーを生かしてゴルフをしたかった」。
その攻めの姿勢はスタートの1番ホールに表れていた。「1番はドライバーでなくてもいいんですけど、1番から攻めていく気持ちでやった」。401ヤード設定で右ドッグレッグのパー4はドライバーを使わない選手が多い。最終日も大西はドライバーを握り、いきなり右に曲げる。3打目の難しいアプローチを2メートルに寄せてパーセーブし「1番はいいショットではなかったけど、ナイスパーだった」と振り返る。これで大西は落ち着くことができた。
最終18番パー4もドライバーを使う選手と使わない選手に分かれる。後ろの最終組を回るサンヒョンと、トータル12アンダーで並んで迎えた72ホール目のティショットでも、大西は迷わずドライバーを選択。左のラフに入れた。「右のバンカーに入ってしまうと難しいので左に行ってしまった」。
最終日のピンは右の一番奥だったことから「けっこういい角度で、ライも良かった」。しかしセカンドショットは、グリーン手前で右にキックしてバンカーへ。これを左からの傾斜を使って1.5メートルに寄せるも外してボギーとし、ホールアウトした時点ではサンヒョンがトップとなった。「負けたと思っていた。もう一回チャンスが来て良かったです」。サンヒョンも同じバンカーに入れてボギーとしたことで、プレーオフに突入した。
再び大西は18番ティに戻った。「ドライバーで心がけているのは最後まで振り切ること。最後のプレーオフも最後まで振り切って真っすぐいった」と、今度はフェアウェイど真ん中をとらえる。セカンドはピンまで残り172ヤード。「8番は168ヤード飛ぶ。プレッシャーのなかだと強く振ってしまう。ピンの左を狙ってとにかくグリーンに乗せようと思ってフェード気味に打ちました。バンカーを越えてくれと思ってボールを追っていました」。それは大西の思い描いた通りの弾道を描いて、ピンの左に着弾し、傾斜で2メートルまで寄った。
サンヒョンの3打目のアプローチはわずかに入らずパー。大西はこのウィニングパットを決めきった。「最後まで攻められて良かったです」。それはデータにも表れている。大西の最終日のフェアウェイキープ率は38.462%で55位。それに対して、ドライビングディスタンスは321ヤードで4位だった。
初めてのプレーオフでツアー初勝利。「正直失うものは何もなかった。本当に自分がやれることを全部やって、それで2位なら受けいれられた。とにかく後悔がないプレーオフを過ごしてやり遂げたかった。それがきょうは優勝できて本当に良かったです」。初日のスタートホールからプレーオフの73ホール目まで、諦めることなく攻めの気持ちを貫いて引き寄せた勝利だった。(文・下村耕平)
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