8人目の“ツアー初優勝者”を生んだ今年の「日本ゴルフツアー選手権」。市原弘大が最終18番で見事なチップインバーディを奪い、単独首位を走っていた時松隆光を下して栄冠を手にした。日本タイトルにふさわしい激闘を見せたツアー選手権を振り返る。
【写真】市原弘大、劇的チップインバーディでこの笑顔
■市原弘大の強さは完璧なスイングと“静かな強さ”
昨年は調子が振るわず、賞金ランク88位でシード落ちを喫するなど調子を落としていた市原。それが今年になって2週前の「関西オープン」で10位タイ、今週のツアー選手権での優勝と調子を上げている。関西オープンで市原と同組で回った田中秀道は、数年前の市原との変化を語る。
「もともと穴が少なくてオールマイティに上手な選手。ジュニアの頃から上手い選手ではありましたが、これまでは腰痛などのケガもあり、ゲームをつなぎ合わせるのが難しい時期があった。その大変な時期を乗り越えて、体も徐々によくなってきた。さらに、30代になって体と心の状態を受け入れることができて、脳と体の距離感が一致してきたという印象を受けました」。
本大会ではパーオン率18位(68.06%)、関西オープンでは20位タイ(63.89%)と安定したショットを見せる秘訣は、「いい選手の条件をそろえたバックスイング」と評するスイングにあった。「ゆっくりバックスイングを上げるのが特徴ですが、腕で上げずに体をねじって上げている。背中をねじっても、クラブと腕はほぼ作業をせず、インパクトで少し押すくらいのイメージ。腕に力感がなく、小手先で振らない代表格」と語る。
加えて市原が秀でていたのは、優勝争いの重圧の中でも平常心を保った精神的な強さ。「18番のアプローチは、かなり繊細なアプローチでした。“やってやるぞ”と力んでしまうと、もう少しインパクトが強くなっていたと思う。どれだけ普段どおりにできるかが試された場面。熱を感じるというより、“静かな強さ”というのが見えた瞬間でした」。
■ひるまず攻めた、時松隆光の完璧なゴルフ
宍戸ヒルズCCの中でも難関ホールとして知られるのが、セカンドでグリーン前に広がる池超えを要求される17番パー4。首位を走っていた時松も、この17番から連続ボギーをたたいて優勝を逃した。「17番は普通にタフなホール。時松選手はフェアウェイから打ったセカンドをグリーン左のエッジに乗せて長いパットが残ってしまった。セカンドを池の手前に刻んで、3打目勝負にしてパーを狙う選択肢もありましたが、時松選手はUTで池を怖がらずに狙っていった。恥じることのないボギーですし、3日目までに引き続き1打1打丁寧にゴルフをしていた。今後のことを見据えた、チャレンジングなショットだった。素晴らしいプレーを見せた2人が、たまたま1位と2位になった。それだけです」と、最後まで熱い戦いを見せた2人を評する。
■今年も生まれた“ツアー初優勝者”
難関コースにもかかわらず、今年を含めて8人のツアー初優勝者を生み出した本大会。その要因を田中が解説する。「難コースの攻略には、思いきりの良さが必要になる。優勝経験のある選手ほど、色々なことを考えて気持ちが強く出すぎてしまうことがあります。そういう意味では、ルーキーや未勝利の選手は気負いすぎずにシンプルに攻められる。市原選手も13、14番でボギーをたたきましたが、優勝争いをしている中にも、楽しさが出ていた。“去年までの自分とは違うぞ”という、ゲームを諦めない強さに加え、この位置で戦えている、ということに対しての楽しさを持ってしっかり振れていました。それが勝ちにつながったのだと思います。若手の星野陸也選手も、そういった思い切りの良さがすごく出ていましたね」。
田中秀道/91年にプロ入り。95年フィリップモリス選手権でツアー初優勝。166センチ、68キロと小柄ながら、体をフルに使ったスイングで300ヤードを飛ばし人気を得た。2001年に米ツアー最終予選を突破して02年から5年間、米ツアーに挑戦した。04年BCオープン、05年クライスラー選手権で3位が最高。現在は日本ツアー復帰を目指す一方、テレビ解説なども行っている。
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