上田桃子らを指導するプロコーチの辻村明志氏が、女子プロの中でも特に“うまい!”と思う選手のプレーをピックアップし解説する「女子プロの匠」。今回は2018年ドライビングディスタンストップ3の葭葉ルミ、穴井詩、比嘉真美子の3人のスイングから、それぞれの飛ばし方を探る。
【スイング連続写真】葭葉ルミの飛ばしの秘訣は右サイドの大きさにあり!
ひとくくりに飛ばし屋といっても「スイングはまさに三者三様です」と飛距離へのアプローチは様々。そこで辻村氏に一人ずつの飛ばしのメソッドをひもといてもらった。
■アーニー・エルスのような葭葉ルミの飛ばしテクニック
まず、ドライビングディスタンス1位(258.29ヤード)に輝いた葭葉を「アーニー・エルスのよう」と例えた辻村氏。「タイミング、リズムの取り方なんかはまさにエルス。ゆったり大きく振ることで飛距離を出しています」。3人の中で一番大きな体重移動とスイングアークがカギだという。
「体重移動と上半身の大きな捻転で高いトップを作り上げています。トップで高さを出せるのは肩甲骨の柔らかさももちろんありますが、ゆっくり上げているのも理由の一つ。ひょいっと勢いで高く上げようとしても、この形は作れません。体幹を使いながら時間をかけて体をねじっていく。そうすることで捻転の深さ、手の高さを生み出すことができるのです」。
この高さ、ねじれによってトップで作り上げた“タメ”をボールに伝えられるのは、左足首で体重をしっかりと受け止められているから。「これだけパワーを溜めているのに、全く左足首が崩れないのはすごいの一言。ダウンスイングから足の裏が一切めくれていません。だから力強い球が打てる」。もう一つ注目したいのは、フォロースルーがコンパクトであること。「右サイドを大きく使って打つ割には、左の腕をたたむのは早めです。これはゴルフのスイングは右サイドも左サイドも両方大きくするとバランスが崩れるからです。右サイドで最大のパワーを作って、左サイドで受ける。これが葭葉さんの飛ばしのテクニックです。非常にバランスがいいですね」。
■穴井詩は和製ダスティン・ジョンソン!?フルスイングで真っすぐ飛ばす工夫
続く穴井は、年齢は他の二人よりも上(30歳)だが、持ち前のフルスイングを生かして18年もドライビングディスタンスで2位。辻村氏は「トップがとても深くて、上半身と下半身が逆に動く“割れ”もしっかりとあって、体が開くほどのフルスイング。そこに飛ばす要素があるわけですが、見て欲しいのはバランスを崩しても、ある程度真っすぐに飛ばせるフェースの向き」と話す。
「まず、グリップから特徴的です。左手を極端なくらいフックグリップに握って、クラブのフェースをシャット(開かない状態)に上げていきます。ダスティン・ジョンソンのような感じですね。同じく左手をフックグリップに握るイ・ミニョンさんは右手をスクエアに握りますが、穴井さんは右手もちょっとフック気味に握っています。だから、体が開くほど思い切り振ったってフェースが開かない。デビッド・デュバルがそうでしたが、フェースがずっとボールを向いた状態にある。だから、ミート率も上がるし、方向性も出てくる」。
インパクト時にもポイントが。「ジョンソンもそうですが、穴井さんもかなりのハンドファースト。インパクトで左肩、手元、ヘッドが一直線になります。インパクトよりも先にこの一直線ができてしまってはダメ。それは緩んでインパクトを迎えているということ。手首のリリースを我慢して我慢して、ボールに当たる瞬間でピタッと一直線に決まる。そして加速したまま大きなフォローに入る。ここでフェースが返ります。このインパクトのかたちとフェースの向きが、飛ばしに加え、方向性もある程度担保する工夫です」。
■比嘉真美子はカウンターの動きで遠心力を生み
ドライビングディスタンスでは3位の比嘉真美子だが、ショットの総合力という意味では3人の中でもピカイチ。パーオン率2位に加えて、ショット力を数値で表すボールストライキング(トータルドライビング順位とパーオン率順位を合算したランキング)でも2位。ドライバーだけでなくアイアンもうまさが際立っている。
賞金ランキングも3人で最上位となる4位だ。「今までは飛んで曲がっていたから成績が出なかった。18年は飛んで曲がらなくなったことが一番大きい。正確に遠くに飛ぶようになったことが飛躍の要因」と分析する辻村氏。17年と18年で一番変わったのが、ダウンスイング時に作られる右ヒジの角度だという。
「18年は切り返しからクラブを下ろしてくるときに、後頭部の後ろにシャフトがあった。17年まではもうこの時点でコックがほどけていた。だからシャフトは、もう腕の延長線上にあったんですよね。だからタイミングが合っていなかった」。いわゆるアーリーリリースとなっていたことが、飛ばなくなっていた理由でもあった。
穴井との共通点でもあるが、この時にできるVの角度が飛ばしの秘訣だと続ける。「しっかりと力を溜めているのが分かるのが、切り返しから右ヒジが下にグンとくるときにできるV字の深い角度。手首とシャフトのアングルと、右ヒジが体にくっついてくる形が、トップよりもなお絞り切れている。この溜めたパワーをインパクトで爆発させることで、より力強い球を生み出しているのです」。
もう一つ注目したいのが“カウンター”の動き。「二人にない部分としては、比嘉さんは最後まで腰を使い切れること。言い換えると軸を残したまま腰を最後まで回せて、溜まったものを全て出し切って爆発させられているということです。フォローの動きを見て欲しいのですが、ヘッドはターゲット方向に遠くに向かっているのに対して、頭は突っ込まず、むしろ後方にズレている感じすらある。ハンマー投げと同じ原理です。遠心力を利用してさらにヘッドを加速させているのです。もちろん、たぐいまれな背筋力もありますが、この動きは飛ばすために必要な要素。一瞬のスピードを作り出すのが非常にうまいですね」。
解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、小祝さくらなどを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。
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