日本選手が19人も出場した2020年全米女子オープンをテレビ観戦していた方には、日本との芝の違いが感じられたかもしれませんね。バミューダ芝のグリーンも難しかったと思いますが、今回はフェアウェイやラフに使われていたティフトン芝についてお話ししたいと思います。
舞台となったチャンピオンズゴルフクラブは、テキサス州ヒューストンにあります。通常の6月ではなく、12月に延期され、日本選手はあまり経験したことのない枯れて色の変わったティフトン芝でのプレーを経験することになりました。
ティフトンというのは本当に難しい芝です。特に男子に比べると非力な女子選手には…。しっかりと張っている根もさることながら、曲者なのは長い茎です。12月ですから、葉は黄色くなりかけていた部分もあったようですが、茎はしっかりしています。それが長ければ長いほど、ボールが沈みやすい。ボールに対してどのクラブのヘッドがどんな角度で入るのか。フライヤーになったり、ドロップしたり、右や左にボールが出るなど、意図していない球筋になってしまうケースが多いので、それを見極めなければなりません。
正直に言って、これに対応するには、経験しかありません。「どうやって打つか?」と考えるのではなく、打ってみること。ショートアイアンならこの角度、ユーティリティならこうして払うように、などと、試行錯誤をひたすら繰り返すしかないのです。ティフトン芝の茎部分の密集度が高ければ高いほど、経験値が必要になります。俗に言う“引き出し”に打ち方を入れていかなければならないのです。
ゴルフを長くやっていればいるほど、この芝でこういう打ち方をすれば、どういう球が出てキャリーがどれだけ出るか、などがわかるようになるというわけです。
芝が青い成長期にもティフトンは難しいのですが、今回は枯れかけているティフトンならではの難しさがあったはずです、ボコボコした綿の塊のようなものが見て取れました。人が歩いたところは、それが踏みつぶされてフラットになっている。けれども、立っていた長い茎が横になっているだけで難しさは残っています。枯れれば易しくなる野芝や高麗芝とは大きく違います。それに苦しんだ選手も多かったようです。
海外の試合に出れば、誰でも経験する芝の違い。私の場合も、とにかく色々な芝で打ってみることで、打ち方を身につけていきました。経験値という点では、ジュニア時代からゴルフを続けている今の選手たちは、若い割には高いのでしょう。それでも、気候や環境が違えば、芝も大きく違います。アメリカでは、地域によって芝が全く違うほどの広さもある。そのことを頭に入れて、自分で経験を積んで初めて、対応することができるのです。
もうひとつ、半日近く自然の中でプレーを続けるゴルフでは、その日、その日のコンディションの中で、自分の体調にも合わせた準備も重要になってきます。地球温暖化のせいか、最近は日本でも極端な気候の変化に出会うことがあります。「一日の中に四季がある」といわれるスコットランドもそうですが、アメリカでも、寒暖の差や突然の気候の変化にさらされることは少なくありません。
今回、悪天候で月曜日に順延となった全米女子オープン最終日は、かなりの寒さに見舞われました。思ったよりもスコアが伸びなかった原因も、そこにあるでしょう。
ただ、その最終日の渋野選手の服装についてずいぶん批判が集まっているのは気になるところです。首回りが寒そうだとか、準備不足であるという声が多かったようですが、ハッキリ言ってそれは本人にしかわからない感覚。周囲がとやかくいうことではありません。
年齢を重ねると、比較的首回りが寒くて、スカーフなどを巻いている女性が増えてきます。かくいう私も頸椎(けいつい)が悪いので今ではその頻度が高く、首回りは温めたいタイプ。けれども、若い頃にはそんなことは考えもしませんでした。首回りがモコモコするほうが嫌だったり、邪魔に感じる人もいるでしょう。必要なら、何らかの形で対応すればいいだけのこと。渋野選手自身が感じて、準備を整える。それについて、周囲がとやかく言うのはおかしなことだと思います。
聞き手・小川淳子
<ゴルフ情報ALBA.Net>