3月5日に開幕を予定していた「ダイキンオーキッドレディス」から、現在9試合連続で大会中止が決定している国内女子ツアー。いまだ新型コロナウイルスの猛威は世界中で衰えをみせず、日本も『緊急事態』のなかに身を置く、先が見えない状況に陥っている。そんななかプレーする場所を失っている選手は、この“空白期間”をどのように過ごしているのだろうか。
稲見萌寧、高校時代の自分と“ツーショット”【写真】
千葉県千葉市若葉区にあるゴルフ練習場「北谷津ゴルフガーデン」。ここの打席で“これまでと変わらず”クラブを振り続けているのが、昨季の「センチュリー21レディス」でツアー初優勝を挙げた稲見萌寧だ。
この練習場は稲見が小学校5年生から10年間通い続け、本人も「学校であり家。家よりもいる時間は長いですね」と話す、いわばホームグラウンド。ダイキン中止が決まり沖縄から戻った後も、ここを拠点にきたる開幕を待ち続けている。
毎週のように発表される『大会中止』という言葉。稲見も「気持ちは切れてはいます」と、この現状に対して偽らざる本音を口にする。しかし北谷津で見たその表情は決して暗いものではない。それは、ここにいる“家族たち”の存在も大きい。
1970年にオープンし、今年50周年を迎えた北谷津ゴルフガーデンは、26年ほど前からジュニア育成にも尽力。レッスン会や月例大会などを通じて、子どもたちにゴルフの楽しさを伝えている。敷地内には2階建ての打撃練習場のほか、総天然芝の18ホールのショートコースも完備。より実戦的な練習に取り組むことができる。
これまでに男子の池田勇太や市原弘大、女子も稲見のほか葭葉ルミや西郷真央ら30人近いプロがここから“輩出”され、今でも顔を出す選手も多い。かつて石川遼らも出場した月例大会はこれまで300回以上を数え、その出場人数は延べ1000人を超える。休校要請の影響もあってか、取材を行った日も昼過ぎになると中学生、高校生くらいのゴルファーが思い思いにゴルフと向き合っていた。
そんな環境のなかで、稲見は今を過ごす。北谷津に集まるジュニア選手や、この練習場所属で2007年「ANAオープン」での優勝経験も持つ男子プロの篠崎紀夫といった面々とともにショートコースでは連日「勝負」が繰り広げられる。「勝負は試合より緊張しますね。年下には負けたくないので。聞かれれば、ゴルフを教えたりもしますが、みんなうまいので教えることはあまりありません(笑)」。これが試合勘の維持のみならず、モチベーションを保つためにも大きな役割を果たしている。
天然芝で、砲台グリーンなども用意される東西9ホールずつのこのショートコースでは、ラウンド以外に、薄い芝からのアプローチ合戦を行うなど、“遊びの延長”で技術を学ぶことができる。「いろいろなライから練習することができます。篠プロ(篠崎)に『こういうのが苦手だけど、どうやって打てばいいの?』とか聞いたりもして。実際トーナメントコースに出た時も、『こういう状況は、この間やったな』と思えるし、練習が自信につながります」。プロゴルファーとしての自分をつくりあげた場所で、長いオフを費やしている。
「気持ちは切れているかもしれない。でも切れる切れない以前に、ここで楽しんでいる間は試合が無いことも忘れてしまいます」と稲見は笑う。かたわらにいた篠崎からは、「試合がないなか、ただクラブを握って練習を続けるだけなのはしんどいと思う。マットの上から打つのと、コースを回るのは違うしね」という合いの手も入る。年は30歳も離れている2人だが、息はピッタリだ。
ゴルフに限った話ではないが、新型コロナウイルスの猛威が“大会開催”という面で協会、各主催者を悩ませている。その状況下で選手は、「難しいのは分かっている。でも始まる時は早く決まるとうれしいですね。いきなり(開催)だと、気持ちを切り替えるのも難しい」と、揺れる心境のなか、再開のアナウンスを待ちわびる。
「出る試合、すべて優勝を狙っていきます。一番の目標はメジャー優勝です」。その気持ちを胸に戦える日が早く訪れることを信じて、きょうも稲見は壁にたくさんのジュニアゴルファーの写真が飾られている“我が家”で、クラブを振り続ける。
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