タイガー・ウッズ(米国)が交通事故を起こして重傷を負ったわずか2日後に開幕した「WGC-ワークデイ選手権アット・ザ・コンセッション」では、選手たちがウッズの回復を祈りながら戦っていた。
3日目の夕暮れどき、ローリー・マキロイ(北アイルランド)が「最終日はタイガーのために赤いシャツと黒いパンツでプレーする」と言った。さすが、次期選手会長に選出されているマキロイの人望は厚く、彼が上げたその声は瞬く間に方々へ広がった
最終日の試合会場には「レッド&ブラック」の装いがあちらこちらに見られた。マキロイにとっては、キャリアで初めて挑む大胆なカラー・コーディネートだったそうだ。
マキロイと同組で回ったパトリック・リード(米国)は、かつての自身の勝負カラーを復活させて、ウッズに祈りを捧げた。トニー・フィナウ、キャメロン・チャンプ(ともに米国)、トミー・フリートウッド(イングランド)など、さらに数人が「赤&黒」で身を固め、ジャスティン・トーマス(米国)は真っ赤ではなくオレンジっぽいシャツを着ていたが、それは2019年の「ファーマーズ・インシュランス・オープン」の際のウッズのシャツと同じものだった。
前夜の突然の呼びかけで赤いシャツが用意できず、別の形でウッズ回復を祈る選手たちの創意工夫を眺めるのも楽しかった。ブライソン・デシャンボーやマット・クーチャー(ともに米国)、ジェイソン・デイ(オーストラリア)は「TIGER」と記されたブリヂストンのボールで最終日を戦った。
シニアのチャンピオンズツアーの会場では、フィル・ミケルソン(米国)が、前夜にわざわざ街に出て購入してきたという赤いシャツ姿で戦い、女子ツアーの会場では、13年ぶりに戦線復帰したアニカ・ソレンスタム(スウェーデン)が夫や息子とともに「レッド&ブラック」姿で登場した。
同週開催の米ツアー大会、「プエルトリコ・オープン」では、コースのメンテナンス・スタッフ全員が「赤&黒」のウエアで集合写真を撮り、SNS上でウッズにエールを送った。
ワークデイ選手権に視線を戻せば、最終日の優勝争いで妙に際立っていたのは、ビリー・ホーシェル(米国)が身に着けていたキャップの左右両側に赤と黒のサインペンで手描きされていた「TW」の二文字だった。
そのホーシェルやブルックス・ケプカ(米国)らを3打差で抑え込んで勝利し、通算4勝目を挙げたのはコリン・モリカワ(米国)だった。
小柄ゆえに飛距離が出ないモリカワの武器は高い正確性と強靭なメンタルだ。2019年、プロ転向のわずか1カ月後に「バラクーダ選手権」で初優勝を挙げ、2020年は「ワークデー・チャリティ・オープン」でジャスティン・トーマスとの一騎打ちを制した。その翌月、「全米プロ」で堂々、メジャー初優勝を達成した。
しかし、以後の成績は振るわず、先週の「ジェネシス招待」でも43位タイに終わった。不調の原因はショートゲームの乱れがもたらす心の乱れ。そんなモリカワに救いの手を差し伸べたのは、かつての名手たちだった。
「マーク・オメーラからパットのグリップを教わり、ポール・エイジンガーからは15分ぐらい、チップの手ほどきをしてもらった。それが僕の人生を救ってくれた」
モリカワは陽気な人柄だが、プレースタイルは、むしろクールだ。最終日の装いも「赤&黒」ではなかったが、その代わりなのか、首元を赤いニットで飾った愛犬の写真が彼のSNSにひっそりアップされていた。
そして、ウッズへの祈りや想いも、彼の胸の中にひっそりと抱かれていた。
「タイガーに憧れて育った僕にとって、タイガーはすべてです。今はタイガーに『ありがとう』を言いたい。コービー・ブライアントも祖父も『ありがとう』を十分に言えないうちに逝ってしまった。タイガーには、どれだけ『ありがとう』を言っても言い尽くせない」
そう言った途端、涙が溢れ出したモリカワの想い、そして「赤&黒」に身を包んだ選手たちの想い、いろんな工夫を凝らしたみんなの祈りは、ベッド上のウッズに届いていた。
「テレビのスイッチを入れて、みんなの赤いシャツを見たときの僕の気持ちは言葉では言い表せない。すべてのゴルファーとファンのみなさんの応援は、この辛い時期を乗り越える上で、僕の大きな励みになります」
ツイッターから聞こえてきたウッズの声は、世界中のファンの大きな喜びになった。
文・舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
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