<パロス・ベルデス選手権 最終日◇1日◇パロス・ベルデスGC(米カリフォルニア州)◇6258ヤード・パー71>
最終組の3つ前の組からスタートしたマリナ・アレックス(米国)は、いつもプレー中にリーダーボードを見ない。「きょうもそれは変わらなかった」と最終ホールをパーで終え、初めてリーダーボードを見たとき、大きく息をついて周囲の笑いを誘った。「首位だった(笑)」。
「とにかく自分のベストを尽くして、それで勝てたらいいし、勝てなかったらしょうがない。いつもそう思っている」。最後のパーパットは1メートル。これを決めて、実質勝利を呼び込んだ形だったが、そのときは状況を理解していなかった。
マリナが最後に優勝したのは2018年の8月。オレゴン州のポートランドでツアー初勝利を飾って以来の2勝目をようやく果たした。「長かった」とひと言で表すほど、簡単ではなかった。優勝決定直後のTVインタビューでは「もう年だから」と漏らす。「この2年はコロナもあったし、することがないから、むしろオーバーワークになって腰を痛めて。また勝てるなんて思ってもみなかった」。信じられないという表情のまま振り返る。
「人生のなかで、もっとこうしたい、ああしたいということが増えてきている。コロナの影響もあるけど」。この数年の生活が、ゴルフ一辺倒という暮らしに疑問符を投げかけた。「本当に『あと何年ゴルフをやるのか』と考えた。だから、今年は一生懸命やろうと決めていた」。
日本では20歳の西郷真央が今季すでに4勝。米国女子ツアーでも19歳のアタヤ・ティティクル(タイ)をはじめ、20歳前後の選手が中心になりつつある。そんな中での苦悩。さらに体の故障も抱えてとなれば、気力も失せてきてもおかしくない。いわば背水の陣で臨んだ今季。マリナは、「ゴルフを辞めるときには、全力を尽くしたと思えるようにしたかった」と、切実だった思いを吐露した。
覚悟を決めて臨んだ今季。先週は10位タイに入り、調子は悪いはずもなかった。コロナという目に見えない敵に狂わされた2年間は、ムダではなかった。覚悟という気持ちが備わったから。「どうせならまた優勝したい」という気持ちが芽生えたのも事実。ただ、本当に叶うなんて夢にも思っていなかった。
「いつかまでやるかは決めていない」というのが正直な気持ち。無欲の勝利は今後の方針にどんな影響を及ぼすのか、マリナ自身も分かっていないという。次戦は地元ニュージャージー州開催の「コグニザント・ファウンダーズカップ」。家族や旧友らから勝利を祝福され、新たな感情が芽生えることだろう。(文・高桑均)
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