30代、40代の女子プロゴルファーたちのしなやかな笑顔の秘密。人生経験豊富な18人が集まった「KURE LADY GO CUP」(13日、茨城県・取手国際GC)は、終始、笑顔の絶えない一日となった。出場していたプロたちの現状から見えてくる女子プロゴルファーの人生模様に迫った。
■「楽しかった」だけでなく次につなげることが大切
有村智恵と原江里菜。強豪・東北高校ゴルフ部の同期で共に34歳の2人が発起人となり、スポンサーを得て30代、40代のプロのイベントが開催された。その様子はGOLFNetTVでライブ配信され、主催のLADYGOでもインスタライブなどの形で伝えられた。8月中旬にはBSテレビ東京でも録画中継される予定だ。
集まったのは最年長43歳の佐藤靖子から最年少30歳の仲宗根澄香までの18人。それぞれ話を聞くと、多様な人生を歩みつつもゴルフとともにあることが見えてくる。
発起人の有村の思いは別記事をご覧いただくとして、もう一人の発起人、原が説明する舞台裏はこんな風だ。「(有村)智恵ちゃんが提案してくれました。自分たちが発信する場所があったらいいな、と」。高校時代、ゴルフ部寮のルームメイトでもある有村とはゴルフだけでなく、これから先の話をたびたびしていたと言う。「ゴルフをやめたら何をやろうとかいつもしゃべっていました。ああしたい、こうしたいって。何か新しいことが発信できたらうれしいよねって。今回こういう機会を頂いて本当に楽しかったです」。
一方で、それだけではいけないことも十分に自覚している。「楽しかっただけでは趣旨とは違う。私たちの話を聞いて賛同してもらえなくちゃいけないと思うんです。今大会の延長線上に次がある。今回、これで発信して次は出たいと思っている人もいるかもしれない。真剣勝負の形になるかもしれない。みんなツアーという刺激的な場を経験して真剣勝負がしたい気持ちがある」と今後につなげる大切さを口にした。
■揺れ動く34歳の心に響いた後輩の言葉
原自身、何度も「ゴルフをやめる」と考えたこともある。だが、そのたびにツアーに戻ってきている。最近では、昨年のQTで73位と思うような結果が出せなかった直後に「今季(2022年)はプレーするけど、それがだめならやめる」と思ったという。だが、今では「もうちょっとやるかな、という気持ちになりました。だからステップ(アップツアー)も予選会(マンデー)も出ている」と前向きだ。
同じ森守洋コーチに師事する後輩の堀琴音に言われた言葉が、揺れ動く34歳の心をしっかりととらえている。「やめたら負けですよ。人生勝ち負けですから」。堀はデビュー2年目から3シーズン連続でシード権を保持したが、2シーズンは極度の不振に陥り賞金シード落ちで辛い日々を送った。そして昨季、ツアー初優勝を遂げるなど復活した経験がある。そんな後輩の言葉に、闘争心をかきたてられた。まだまだ。そんな気持ちが強い目力に表れる。
■子育て中のママさんゴルファーも求める“真剣勝負”の場
9組18人で行われたペアマッチで優勝した一ノ瀬優希、服部真夕のコンビも、パワーに満ち溢れている。前日の12日に行われた日本女子プロゴルフ選手権(9月8〜11日、京都・城陽CC)の予選に出場。77人中8人が本戦出場権を得られる美奈木GCでの関西予選を服部は2位、一ノ瀬は3位で突破して、その足でイベントに出場。黄色で揃えたシャツを身につけて優勝している。
元々親交の深い2人の日常はまったく違っている。ツアー5勝の服部は34歳になった今、シード権を失いながらも、出場できる試合やステップアップツアーで復活を狙っている。一ノ瀬は、2019年にシード権を失ったタイミングでツアーから離れることを決意。同時に結婚し、2020年10月には長女を出産した。その後、復帰を決意してQTから試合に出場している。「試合の時は九州の実家に子供を預けています。普段は基本娘中心の生活です。練習場に娘を連れて行ったり、近所の一時託児所に2時間預けて、とかして練習します。子供を産んでからは、完璧主義者じゃなくなって気持ちが楽になりました」と、自分中心から子供中心の生活への大きな変化の中で、ゴルフを続けている。
長男出産後復帰後の昨年、ツアー4勝目を飾った若林舞衣子の顔もあった。昨年の優勝シーンはベビーカーでお昼寝中だった長男も3歳に成長し、この日はスタートホールではママのショットに拍手を贈った。少し年下の佐藤のぞみの長女と手をつないで遊ぶ微笑ましい姿には、参加者のほとんどが笑顔になった。
他に子育て中なのは佐藤靖子、甲田良美、佐藤のぞみだ。特に甲田と佐藤のぞみは、家族の協力を得ながら練習やラウンドの時間を捻出する毎日を送るが、基本的に子育て中心の生活を送っている。だからこそ、1日だけのイベントは出場しやすいと声を揃える。
■生涯スポーツのゴルフならではの可能性が広がる
2人の子育て中の39歳の甲田は「(子供を)産んで(ツアーに)戻ることの大変さを感じています。次に試合に出られるのは(レジェンズツアーの資格が得られる)45歳かな、と思っているくらい。でも、ママさんゴルファーもちらほら出て来ているので」。女子ツアーには男子のシニアにあたる45歳以上対象の「JLPGAレジェンズツアー」がある。30代半ばでツアーの出場権を逃した選手には少し時間がある。30歳以上対象のこうした試合が増えることに希望をのぞかせた。
レーサーとしての顔も持つ下村真由美のように、ゴルフだけではなく世界を広げている者もいるのが、ゴルフ一筋の若手とは違うところでもある。
18人の中でシード選手として今年もツアーで戦っているのは、発起人である有村、若林、藤田さいき、笠りつ子、菊池絵里香、仲宗根澄香だ。金田久美子も序盤戦で結果を出し、リランキングでシーズン中盤出場権を手にしている。他に木戸愛、藤本麻子、西山ゆかり、吉田弓美子らシード復活を目指す戦いを続ける者も多い。
それぞれがその時々の自分の居場所を模索しながら日々を精一杯に過ごす毎日。自分だけでなく家族や友達、仕事仲間やファンなど周りの人たちにも笑顔を広げる。30代、40代の女子プロゴルファーたちのたくましさの秘密がここにある。生涯スポーツ、ゴルフならではの可能性は、今後、さらに広がっていくに違いない。その背中を後輩たちも見ているはずだ。(文・小川淳子)
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