2018年、松山英樹は米国ハワイ州、マウイ島で開催されている「セントリー・トーナメント・オブ・チャンピオンズ」(カパルア・プランテーションコース)でその初戦を迎えると「今年は“無”。無心で行きたい」、そう目標を掲げてリラックスした表情を見せていた。
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“無”とは松山から初めて聞く言葉だった。一体その真意はどこにあるのだろうか…。
そう考えて思い出されたのは、やはり昨年8月、メジャー最終戦の「全米プロゴルフ選手権」でメジャー初制覇に手が届きそうになりながらもわずかに及ばす、ジャスティン・トーマス(米国)に勝利を奪われた、あの大会だった。最終日、バックナインを単独首位で迎えたがそこからは何かが狂ってしまい、勝利は松山の手からこぼれ落ちた。
いつもは感情を押し殺して表に半分も出さない松山だったが、このときはカメラの前で号泣…。
拭いても拭いてもその涙が止まらなかった姿は、ファンの心にも大きく残っているだろう。
昨年末、日本に帰国していた松山はいくつかのテレビ番組にも出演。その中であの“涙”のワケを話す場面があった。
「自分の思ったプレーができなかったんです。プレッシャーならいつも感じているのに、あのときだけは自分の思ったように体が動かせなかった。思ったプレーができて負けたのならあそこまで泣かなかったと思う。どうして体が動かなかったのか…、それが分からない。その要因を探してみたいと思う」
おおむねそういう内容だった。それがメジャーのプレッシャーだと言ってしまえば簡単なのかもしれない。しかし彼の中ではそうは簡単には納得できなかったようだ。それを考えあぐねた結果が自分を“無”にすることだったのかもしれない、そう思えた。
“無”とは、欲を出さないこと。
それはゴルファーにとって難しいことだろう。そう目標を掲げた松山が、今年は精神的に大きく変わったようにみえた。これはメジャー大会の優勝争いで必ず違いが出てくる、そう確信したから今年は大いに期待したい。
さて、そんな松山を米メディアはどうみているのだろうか?開幕前日の夕方、ほとんど最後の一人になるまで練習グリーンでショートゲームの調整をしていた松山。米ゴルフ雑誌の記者がその終わりをじっと待っていた。若手のトップ選手たちの特集で、この日は松山を撮影する約束なのだという。インタビューは後日にするそうだが、「ヒデキのことをもっと知りたいのだけど、それはどうやら言葉の問題だけじゃあなさそうだね」という。彼が驚いたのは松山が昨年、結婚をして子供が生まれたことを発表したときだそうだ。涙を流した全米プロゴルフ選手権を終えた直後だった。年始めに結婚、7月には第一子が誕生、「すごくいいニュースなのに、ヒデキはずっと君たちには話さなかったんだね。それは日本の文化?」と尋ねられた。
くしくも今大会の直前、24歳のジョーダン・スピース(米国)が高校時代からのガールフレンドと12月に婚約したことを発表。人気選手のリッキー・ファウラー(米国)(29歳)も恋人とのツーショットを度々SNSにアップして話題を集めている。
「日本の文化というよりは、それが松山英樹のフィロソフィー(哲学)と思う」と答えると、「ヒデキにどうして発表しなかったの?と以前に聞いたら、『誰も聞かなかったから』と言われた。だから今年は僕たちが色んなことを彼に聞くことにしたんだ。今年は違うヒデキを世界に紹介するんだ」と意気込んでいたから、もしかすると今年は、米国で違った松山の素顔が見られるかもしれない。ニューイヤーはニュー松山英樹になるか、こちらも無心で、そして静かに期待しようと思う。
文・武川玲子
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