「あ〜、疲れた〜」
国内女子ツアーの今季メジャー初戦「ワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップ」のクラブハウス前。ラウンドを終えた多くの選手が、他の選手や関係者らを見つけるやいなや、こんな言葉を口にする場面をよく見かけた。体力的に疲れているのはもちろんだろう。だが、原因はそれだけではなかったようだ。
この大会をトータル3オーバー・8位タイで終えた藤本麻子は、「体よりも頭が疲れました。コースが難しいので考えながらのプレーが続いて、リーダーボードを見る余裕もありませんでした」と、ホールアウト後の疲れの原因を口にした。藤本だけでなく、「セッティングが難しい」、「神経を使う」、「守りに徹しました」などなど。表現の差こそあれ、話を聞く選手は皆、口をそろえてコースの難しさを訴えた。
開幕前に行われたコース説明の会見冒頭。日本女子プロゴルフ協会(LPGA)の原田香里大会競技委員長は、セッティングについて「難しいです」といい切った。そのポイントについては「小さいうえに、硬くて速いグリーン」、「新潟県の山砂に入れ替えて柔らかくなったバンカー」、「長いラフ」の3点を挙げ、コースマネジメントとショートゲームが攻略の糸口になると説明した。「世界に通用する選手を育てたい」という思いから難コースを用意したLPGAの思惑は、選手の声を聞くとばっちりハマったことが分かる。
しかし、誤算もあった。優勝スコアについて原田委員長は、「1日3アンダー。4日で12アンダー」を想定していると語った。しかし、フタを開けると優勝した申ジエ(韓国)でもトータルスコアは3アンダー。トータルでアンダーパーだったのは、最終日に激闘を繰り広げた最終組のジエ、鈴木愛、イ・ジョンウン6(韓国)の3人のみだった。このギャップはなぜ生じたのか。
会場となった茨城ゴルフ倶楽部に所属する細川和彦の話を聞くと、「今回のセッティングは男子よりも難しい」という見解が返ってきた。 グリーンは、コンパクション(グリーンの固さを示す数値)が24〜25mm、スティンプメーター(速さを示す数値)が12フィートと女子ツアーとしてはかなりタフな設定となっていた。 「サンドウェッジでもボールが止まらない」と細川がいうこのグリーンに加え、長いラフとバンカーのプレッシャーもあり、「攻略の糸口」とされたショートゲームで多くの選手が苦しめられた。
さらに大会期間中は初日の朝こそ雨が降ったが、それ以降は半袖でも汗ばむほどの五月晴れが続いた。この天候により、「スティンプメーターが13フィートくらいになっているんじゃないか」という可能性も細川は指摘する。これに難しく切られたピンポジションも相まって、“難攻不落のグリーン”が選手の前に立ちはだかっていた。
3日目の夜中と最終日の早朝には、「強い日差しのせいで、グリーンがセッティングよりも硬くなることを避けるため」(原田委員長)グリーンに水を撒く措置もとられた。これもあってか、3日目わずか3人だったアンダーパーの選手は17人に増えた。しかし首位を独走していたジョンウンが最終日にガクッとスコアを落とすなど、最後まで一筋縄ではいかないコースだったのは明白だ。
出場選手がボギー以上のスコアをたたいた回数は「1647」。これは同じく西コースで行われた昨年の「1508」と比べて139も増加した。そんな今大会では、「我慢のゴルフ」が選手の合言葉のようにもなった。無理に攻めるのではなく、パーでしのぎながらチャンスをうかがう。これができた選手が上位に顔を出す展開となり、それが最後に訪れた大逆転劇の伏線にもなった。
ただ、ラウンドを眺めながら、こんな思いも湧きあがってきた。浮かれ気分満載のゴールデンウィーク。小さな子供もたくさん来場していただけに、胸のすくようなバーディラッシュや、スコアの伸ばしあいといった、“誰の目で見ても分かる”展開もありだったのかな、と。(文・間宮輝憲)
<ゴルフ情報ALBA.Net>